モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年4月27日に開催した「Z世代起業家特集」です。

次世代型ライフスタイルに対応した事業を展開

Z世代(Generation Z)とは一般的に 1990年代中盤~2010年代序盤に生まれた世代を指し、年齢としては、12歳から27歳くらいに相当します。Z世代起業家の活躍にも注目が高まっています。非常にスピード感をもって事業を進めている点が特徴で、小川嶺氏スキマ時間のバイトアプリを提供するタイミーは、サービス開始から3年で総額90億円以上の資金調達を達成しています。

昨年もZ世代起業家特集を開催しましたが、その中で登壇した企業はこの1年で急速に事業成長しています。自走型ロープウェイ「Zippar」を開発するZip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー)は、大手総合エンジニアリング株式会社とスポンサー契約を交わしました。デジタル証明書の発行・管理・認証を行う台湾のTuring Certs(チューリングサーツ)は、米国本店を移転し、日本に子会社を設置しました。

Z世代の起業家は、iPhoneやiPadなどに囲まれて育ったため、こうしたデジタル機器を簡単に使いこなすことができ、次世代型ライフスタイルのニーズを踏まえた事業展開を進めています。現在だとChatGPTを活用したサービスが相次いで誕生しています。また、生まれたときから自由にインターネットを利用できる環境で育ったため、SNSを通して他国の人々とコミュニケーションを図ることに抵抗が少なく、グローバルな視点を持ってビジネスを行っているケースも多くみられます。環境や差別問題などへの関心も高く、社会課題解決型のビジネスに果敢に挑戦する人が多い点も特徴です。

アントレプレナーシップ教育が活発に

事業環境も恵まれています。アントレプレナーシップ(起業家精神)教育が盛んに行われるようになり、学生時代から起業への関心が高まるようになりました。例えば東京都は2022年度に、都内の小中学校10校に向けて起業家教育プログラムを実施しました。文部科学省は全国の大学を対象に、次世代アントレプレナー育成事業を展開。2017年度から20年度にかけて延べ4万人近くが参加し。135件の起業実績があります。中小企業庁が高校に向けて実施している起業家教育は、起業だけのための教育ではなく、主体性、創造性、分析力、コミュニケーション力などを醸成する、「これからの時代で生きる力」を身につけることを目的として掲げています。

若手経営者の活躍で起業のハードル下がる

ロールモデルも出現しており、ミレニアム世代後半の若手起業家がすでに多く活躍、Z世代の起業のハードルはだいぶ下がっています。日本発のブロックチェーン「Astar Network(アスターネットワーク)」を展開するStake Technologies(ステイク・テクノロジーズ)の渡辺創太CEOは1995年生まれ。海外に飛び出して存在感を示しています。

また、シード期向けの支援が充実するなど、事業運営を行いやすい環境が構築されています。具体的にはVCからの投資やアクセラレーションプログラムを通じたノウハウの提供が積極的に行われているほか、インキュベーション施設やシェアハウスの立ち上げも活発です。

協業事例も相次いでいます。次世代ライフスタイルの領域では、AIカフェロボットのNew Innovations(ニューイノベーションズ)が大手私鉄会社と提携し、アプリで時間と駅内の受け取り場所を指定して、完全無人非接触でスペシャルコーヒーを受け取れる、新しいサービスを提供しています。

グローバルの分野では、コンピューターサイエンティスト向けの論文掲載・参照プラットフォームを提供する筑波大発ベンチャーのOnikle(オニクル)が、米大手半導体メーカーと連携し開発を進めています。政策共創を実現するプラットフォーム運営のPoliPoli(ポリポリ)は、さまざまな自治体との連携を進めています。

今回はフード・ヘルスケアやソーシャル、HRの分野から5社を紹介します。

社会課題の解決に取り組む企業への就活プラットフォーム(株式会社アレスグッド

アレスグッド(神奈川県鎌倉市)は社会課題の解決に力を入れている企業を中心に、情報収集や企業選びができる就活プラットフォーム「エシカル就活」を展開しています。Z世代の間ではサスティナビリティが就活軸として急上昇しており、自身が興味を持つ社会課題の解決に取り組む企業に就職したいという一定のニーズがあります。エシカル就活では企業の事業内容やミッション、社員の声などがまとめられたページを提供し、企業側からも学生にアプローチすることが可能であり、社会課題の解決に向けたマッチングを行います。

月経・妊活アプリを通じ、各種データを収集・分析(Flora株式会社

Flora(フローラ、京都市左京区)は、一般消費者向けに月経と妊活のアプリを提供しています。アプリを通じて生理周期や症状のデータを蓄積する他、チャットボットでのやり取りもデータとして収集。使用している化粧品や生活習慣、食習慣データなど、他社が持っていないデータも活用し、より深い分析が可能となっています。企業向けには、女性従業員の活躍やダイバーシティの推進につながるサポートを実施。生理痛や更年期で昇進を辞退している女性を支援したり、女性をターゲットとしている企業にデータを提供したりしています。

ポップアップで暗号資産詐欺を防止(株式会社KEKKAI

KEKKAI(ケッカイ、東京都新宿区)は、Web3領域での暗号資産詐欺を防止できるセキュリティツールの開発を進めています。「KEKKAI Plugin」には、詐欺から守るため、取引リスクをポップアップで知らせる機能を搭載。署名前に危険性を知ることができるようにしています。2022年の暗号資産詐欺の被害額は約5000億円で、前年比約3倍と大幅に増加しています。今後、Web3.0市場の伸びが想定されますが、それに伴い詐欺被害額もさらに増える見通しで、同社ツールの需要は高まりそうです。

災害備蓄食ロスのゼロ化を目指す(株式会社StockBase

StockBase(ストックベース、横浜市中区)は、備蓄食やノベルティを有効活用するマッチングプラットフォーム「ストックベース」を運営しています。「ただ備える備蓄」から「消費まで設計した備蓄」への変革だけでなく、地域社会での循環によって、増え続ける食品ロス対策と貧困世帯への支援を同時に行なっています。企業側にマネタイズポイントがあり、寄付という概念ではなく、有効活用までを設計した循環型社会のモデルを構築しています。当面の目標は、災害備蓄食ロスのゼロ化です。

大学への寄付文化を醸成し、イノベーションの活性化(株式会社Alumnote

Alumnote(アルムノート、東京都台東区)は、寄付文化の醸成を通じた大学の財政基盤の強化を目指し、関係者名簿のデータベース化や、卒業生のコミュニティ活性化支援に取り組んでいます。大学はイノベーションの活性化に向けた、人材・技術の輩出機関として、重要な役割を果たします。しかし、少子化や運営交付金の削減によって財政基盤が弱まり、国際競争力が低下、イノベーションの創出機能が弱体化しているのが現状です。サービスを通じ寄付者とのコミュニケーションを深めながら、各大学のニーズに合わせたチャリティイベントの企画・運営までを手がけます。

 

Z世代の起業家は、たとえ大きな社会課題であったとしても自分ごと化して、世の中を良くするために果敢にチャレンジしていく傾向が鮮明です。地球温暖化や食料不足といった問題が世界規模で深刻化しているだけに、さらなる活躍が見込まれます。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

鈴木 一真 (すずき・かずまさ)

 

 

慶應義塾大学商学部卒、新卒でデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)に入社。大学時代の課外活動にて、新聞社の大学生向けサービスにアンバサダーとして参加。大学時代のインターンにて、HRスタートアップ就活生向けOB/OG訪問のプラットフォームのマーケティングとプロダクト開発に従事。
DTVSでは、シード期起業家向けアクセラレーションプログラム、新卒採用インターンの企画運営、その他に従事。

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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