この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年5月11日に開催した「SaaS特集」です。
SaaSとは、「Software as a Service」 の略で従来はパッケージとして提供されていたソフトウェアをインターネット上で利用するものです。多くの人が使っているGmailやMicrosoft 365、Slack、DropboxなどはすべてSaaSで、コロナで一気に広まったZoomもSaaSです。
SaaSはホリゾンタル、バーティカルという2つの種類によって構成されています。業種に関わらず利用されるのがホリゾンタルSaaS。メールサービスやオンラインストレージサービス、勤怠管理や経費精算といったクラウドサービスが、これに相当します。営業の開拓先が大きく広がっている一方で、競争が激しいという側面を持ち合わせています。
製造業や物流業など、ユーザーとなる業界を限定したサービスがバーティカルSaaSです。これまでは、ホリゾンタルSaaSが売上高、投資額ともに大きく、市場のけん引役を果たしてきましたが、今後はユーザーのニーズに細かく対応できるバーティカルSaaSがその流れに乗るとみられます。
SaaSに代表されるサブスク型のビジネスモデルにとって重要な指標が、毎年決まって得られる1年間分の収益を表す年間経常収益(ARR)です。国内トップのSaaS企業は、200億円に到達し、100億円越えも7社を数えます。
ARRが重要な理由は3つあります。まず、ビジネスの成長を確認できる点です。二つ目が将来予測に役立つことです。例えば12カ月にわたって年間契約を行った場合、その契約のARRがそのまま今後の1年間の売り上げ見込みとして、年間収支や事業計画を策定する際に活用できます。三つ目が、企業価値を評価するための指標となる点。ビジネスの成長性を確認できて将来予測にも役立つからです。
また、SaaSビジネスでは、カスタマーサクセスが重要な役割を果たします。顧客の成功を支援することで更新率を高め、長期間にわたってサービスを利用してもらう必要があるからです。
私自身は大手企業に勤務していた時、カスタマーサポートの部署で働き、顧客からのあらゆる問い合わせに対応してきました。その後、SaaSベンチャー3社でカスタマーサクセスに業務として携わり、カスタマーサポートチームの立ち上げに従事しています。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いはKPI(成果指標)に表れます。カスタマーサクセスのKPIは解約率の低下や維持率の上昇なのに対し、カスタマーサポートは電話の応答率や問題解決の数などです。私自身も仕事を通じ、それらの大きな違いを実感しました。
コロナ禍を経てSaaS関連では、コミュニケーションツール関連のビジネスが台頭しています。オンラインとオフラインを掛け合わせた就労環境づくりが求められているためです。代表的なツールが、アバターなどを介して出社するバーチャルオフィスです。また、オンラインセミナーや研修で動画を活用する動きが進んだほか、音声のみでゆるくつながりたいというニーズに応え、音声コミュニケーションツール「Discord」もビジネスシーンで使われるようになりました。
モーニングピッチへの登壇企業と大手企業との協業も進んでいます。法人向け企業情報管理サービスのSansanは大手複合機メーカーと共同で、中堅・中小企業の経理業務のデジタル化と、インボイス制度などに対応したサービスを提供しています。位置情報の解決を図る東大発ベンチャー、LocationMindは、大手トラックメーカーとリアルタイムの位置情報を活用した物流ソリューションの開発を進めています。今回は製造、物流、セキュリティ、セールス、CSという領域から5社を紹介します。
東京ファクトリー(東京都文京区)は、重工業産業の現場に向けたSaaS「Proceedクラウド」を提供しています。これまで有効活用されてこなかった写真をベースに現場のデータベースを構築することで、業務の効率化や現場の可視化、技術伝承などを実現。製造業のDXを支援します。生産現場に足を運べない海外の外注先や、遠隔地のメンテナンスが必要な企業などと相性が良く、海外20カ国での利用実績があります。今後は重工業以外の製造業、プラントのメンテナンス業界などへ展開していきます。
Cloudbase(東京都中央区)は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などのパブリッククラウドの利用がますます加速する中、セキュリティ事故が多発している点を踏まえ、安全なクラウド運用を実現するセキュリティサービス「Cloudbase」を提供しています。数百万~数千万の設定項目を5分でチェックし、複合的な診断で危険性の高いリスクを特定できる点が特徴で、専門家でなくてもリスク削減が可能です。クラウドだけではなくサプライチェーン、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の各セキュリティ領域にも対応していく予定です。
アセンド(東京都新宿区)は、トラック運送事業者の業務効率化と経営DXを同時に実現するクラウド型の業務管理ツール「LogiX」を展開、運送業に特化したオールインワン型のSaaSを提供しています。受注案件を登録すれば配車表に連携し、デジタル上でトラックのシフトを作成できるサービスで、配車結果は請求書に自動記載。現場の担当者はアナログなデータ管理から解放されます。また、業務で使用されたデータは自動的に経営ダッシュボードと連携。案件の受注から配車・請求書の発行までを一気通貫でデジタル化します。
noco(千葉県船橋市)は、生産性向上や人材教育を支えるマニュアル作成管理ツール「トースターチーム」を展開しています。マニュアルはフォーマットがバラバラですが、トースターチームを活用すればマニュアルや動画、用語集など、業務に必要なノウハウと知識、経験をひとつにまとめて活用することが可能。未経験者でも正確できれいなマニュアルを作成でき、社内で活用する情報の種類に応じて、それぞれに最適化された機能をオールインワンで行えます。すでに累計導入社数は2000を超えました。
ディライト(東京都千代田区)は、コールセンターのワークフローをパーソナライズして自動化する多言語電話ボット「ディライトアシスタント」を開発・運営しています。30言語に対応しており格安プランから開始し、上位のエンタープライズプランまで拡張できリスクが少ないことも特徴です。今後は特に、航空、電力・ガス、Eコマースやカタログ通販を取り扱う大企業、自治体などへの展開に力を入れ、他社のeKYC(オンライン本人認証)やChatGPTなどとも連携を進めていきます。
DXの基盤整備などに関わる国内市場の規模は今後、大きく膨らむ見通しです。開発費をかけずにソフトを割安に使えるSaaSは基盤整備の有力な担い手となるだけに、SaaS系ベンチャーはさらに活躍しそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部 Morning Pitchユニット
坂口 智沙都(さかぐち・ちさと)
大手自動車系列の金融・サービス会社にて与信審査業務、ITサポートのアウトソーシングを提供する大手ITグループのサービス専業会社にて、東証プライム上場広告代理店常駐の社内SE業務に従事した後、過去モーニングピッチへの登壇歴のあるSaaS企業3社(Fintech、ウェブ接客、OMOマーケティング)を経て現職。デロイト トーマツ ベンチャーサポート参画後は、モーニングピッチ運営等を担当。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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