モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年4月20日に開催した「データサイエンス特集」です。

取得データ量が圧倒的に増え、社会実装が進む

データサイエンスは、収集したデータに基づき解析を行い、価値を生み出す学問のことを指します。

言葉自体は1970年代から使われていましたが、社会実装に確実につながっていることもあり、近年になって改めて注目されるようになりました。

その理由の一つは、取得できるデータ量が圧倒的に増えた点です。インターネット上の情報に加え、IoTセンサーなどからもデータを収集できるようになったほか、光学式文字読み取り(OCR)によってアナログデータのデジタル化が進んだことも追い風となっています。

二つ目は、ハード基盤の性能が向上したことで、オンプレミス(自社所有)の時代から脱却し、クラウドコンピューティングが大幅に進化したことも貢献しています。

三つ目はソフトの進化です。ディープラーニングなどの機械学習アルゴリズムが発展したことと、実際にそれを簡単に実装できるツールやライブラリーの開発が進んだことが大きく影響していると感じています。

データサイエンスに対する影響も大きいため、これから飛躍的な性能向上が見込まれる対話型AIの「Chat(チャット)GPT」にも触れておきたいと思います。

2022年11月にサービスを開始して以来、2カ月で1億ユーザーを獲得するなど爆発的に普及しており、大手エレクトロニクスメーカーが全面導入するなど業務での利用の動きが相次いでいます。ただ、セキュリティリスクが指摘されるなど賛否両面があります。制御しきれない部分があるからで、使い方に関しては気を付けた方がいいと思います。

これから、より重要になるビジネス力

話しをデータサイエンスに戻します。

データサイエンスには(1)課題背景を理解したうえでビジネス課題を整理し、解決するビジネス力(2)情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力(3)データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力-という3つのスキルが必要ですが、これからはビジネス力がより重要になってくると考えられます。また、ChatGPTを活用するのであれば、期待するアウトプットにつながるような問いを投げかけて、その答えを踏まえた解決法を導き出すという手腕が求められます。

データサイエンスは全てのビジネスパーソンに必要なスキル

データサイエンスをめぐって活発なのが、教育です。小中高、高専、大学、社会人と関係なく、データサイエンスのリテラシーのアップデートが求められ、科学や技術、芸術などを横断的に学ぶ「STEAM教育」が加速しています。また、小学生の6割がプログラミングを経験。データサイエンスコースを開設する高校も出現し、学び直すリカレント教育も流行しています。大学では理文問わず、データサイエンスを必修化する動きや、データサイエンス研究科・学部・学科の新設が相次いでいます。

データサイエンスの活用事例も増えています。大手コンビニエスストアはデータ分析ソフトを提供するスタートアップの技術を導入。データ分析の知識や経験がない担当者でも、容易に予測モデルの作成などが可能になり、ターゲティング広告の商品購入率を大幅に向上しました。

また、モビリティ業界では、自動車業界だけに留まらず、海上移動などでもデータ活用が進んでいます。例えば、水上モビリティサービスを提供するスタートアップは、国内の旅客船運行事業者と連携、国内で初めてとなる自律航行船による水上タクシーの営業を開始しています。

本日はコミュニケーション、前処理・加工、セキュリティ、モビリティ、スポーツ・エンタメ・ファッション領域から5社を紹介します。

組織マネジメントの支援を推進(ラボラティック株式会社

ラボラティック(東京都中央区)は、「Slack」のコミュニケーション行動データを活用し、組織マネジメントの支援を推進しています。展開しているのは従業員エンゲージメントプラットフォーム「NEWORG(ニューオーグ)/EL(エル)」。これまでのアンケート診断をネットワーク診断で代替し、高いパフォーマンスを発揮しやすくするといった強みを持っています。事業拡大を見据え、ビジネスチャットやHRテック、コンサル市場などのニーズを取り込むプラットフォーム設計を目指します。

プログラム不要のデータ分析ツールサービス(株式会社nehan

nehan(ネハン、東京都渋谷区)はプログラム不要のデータ分析ツールサービスを提供することで、ビジネスを改善しDXを加速させる役割を果たします。さまざまな業種でエクセルなどを利用したデータ分析が実施されていますが、インプットデータを整備することに多くの時間が割かれるのが実態です。分析ツールの導入により、プログラミング不要でデータ前処理や分析、可視化までスキルに依存せずに実現でき、データ活用人材を増やし、DXを推進することが可能になります。

航空機の運航現場のオペレーションを最適化(株式会社NABLA Mobility

NABLA Mobility(ナブラモビリティ、東京都千代田区)はAIや機械学習等を駆使して、航空機の運航現場のオペレーションの最適化を可能にするソリューション「Weave(ウィーブ)」を提供しています。判断が属人化されていた乱気流などの複雑な情報を最適化、リアルタイムでの航空機の最適なルート把握を可能にします。また、各フライトのCO2排出量を迅速に算出し、燃料利用の効率化と脱炭素化の実現に向けた支援を行っています。

複数のプライバシーテックを組み合わせたデータ処理(株式会社Acompany

Acompany(アカンパニー、名古屋市西区)は「プライバシー保護とデータ活用」の両立を実現するプラットフォームと、導入に伴うコンサルティングサービスを提供しています。他社とのデータ連携を検討するにあたって、規制や高いセキュリティ要件に苦心する企業向けに、複数のプライバシーテックを組み合わせたデータ処理プロセスを可能にしています。今後は国内市場だけではなく、規制強化が予想される米国市場を有力なマーケットの一つと捉え、サービスを拡大する予定です。

スマホでボールや動作を解析し指導(株式会社Knowhere

Knowhere(ノーウェア)物体検知AIを活用し、スマートフォン1つでボールや動作の解析から指導までを行えるアプリを提供しています。ボールの回転数・急速、体の動きなどをAIがフィードバック。まずは野球分野での活用を目指し、「外苑前野球ジム」もオープンしました。今後はメジャーリーグベースボール(MLB)や他スポーツでの展開を予定しています。また、スポーツ以外にも交通、セキュリティ、建設、エンターテインメントなどさまざまな分野での連携を見込んでいます。

 

現代はさまざまな大量のデータが入手可能です。こうしたビッグデータは重要な経営資源で「21世紀の石油」とも呼ばれています。そこから有用な情報を抽出して社会課題の解決に結び付けるデータサイエンスの存在感は増すばかり。データサイエンス系ベンチャーの活躍の場は大きく広がるとみられます。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

スタートアップ事業部

伊達 貴徳(だて・たかのり)

東京工業大学大学院、グロービス経営大学院 修了。東証一部上場電機メーカーにてシステム開発業務に従事した後、外資系コンサルティングファームにてテクノロジーコンサルティング業務に従事。デロイトトーマツベンチャーサポート参画後は、スタートアップ向けのメンタリングイベントの運営、集中支援プログラムのアクセラレーターやマネジメント等に従事。その他、スタートアップのソリューションを大企業に導入するDX推進プロジェクトにも従事。データサイエンスに関するセミナー講師、機械学習に関する著書を有する。

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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