この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年4月6日に開催した「スマートシティ特集」です。
デジタルの活用によって街全体が抱える社会課題の解決を図り、生活をより良くして、持続可能なものにするという手法がスマートシティです。
日本では内閣府が中心となり、スーパーシティとして位置づけ事業を進めており、生活全般にまたがるデータの連携によって、複数分野の先端サービスを提供しています。また、国家戦略特区制度を活用して一体的な推進を行っています。
ただ、海外とはスマートシティに対するアプローチ法が大きく異なります。日本では観光やモビリティなど、「どういった分野にスマートシティを取り入れていきましょうか」と語られがちです。これに対し、スマートシティの先端を歩む欧州などでは、「なんのためにスマートシティに取り組むのか」や「それによって何を実現したいのか」といった目的別にスマートシティを評価する枠組みが出来上がっています。
スマートシティを実現するにあたっては、コストの問題を避けて通ることはできません。整備されていない未開発の土地において事業をゼロから開発し、ITを基軸とした街づくりを目指すグリーンフィールドでも、既存の街をスマートシティ化するパターンでも、莫大な先行投資を必要とするため、どうしても補助金頼みにならざるをえないからです。
2003年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」、通称「骨太の方針」では、ソーシャルインパクトボンド(SIB)等のインパクト投資の促進を通じた社会的起業家(インパクトスタートアップ)への支援強化が示されています。スマートシティは、複数のステークホルダーが便益を享受できる取組みやソーシャルインパクトの創出を目指すスタートアップの活躍が期待される分野です。スタートアップの公共調達への参加が促進されることで持続可能なスマートシティが実現していくと期待されます。
スマート化によって収益を確保するには、街全体できちんとした事業計画を策定していくことが、非常に大事なポイントとなります。街は造って終わりではなく未来永劫、続くものです。どういった具合に社会に変化が起きて、街が対応していくのかという次の打ち手を見出す作業が重要です。そのためにまずは街のデータを取得し、可視化して分析した上で、サービスを導入することが必要です。スマートシティは当然ながら、収益性の高いサービスだけではなくて公共性の高いサービスも備わっていなければなりません。そのためにも収入を得られる領域と得ることが難しい領域を、バランスよく選択する必要があります。
また、多くのプレーヤーが関与すればするほどスマートシティとして発展を遂げていきます。ただ会社名が並んでいるのではなく、主体的に社会課題を解決していこうと思うプレーヤーがたくさんかかわっていけることが、非常に重要なポイントになってきます。新規ビジネスが溢れてウェルビーイングな住民生活が実現し、対外的にもまちのブランディングが確立することで、賑わいが創出され収益性を確保したスマートシティになると考えられますので、スタートアップはスマートシティの発展にとって、非常に重要なプレーヤーになります。
実際、エリアやビルを所有している企業が、エリアコミュニティ全体の価値向上に貢献しようという目的で、スタートアップと協業を重ねている事例が増えています。
大手映画会社は、schemeVergeが提供する観光ナビアプリ「Horai」を通じて、東銀座エリアの飲食店等でスタンプリーを実施。参加者の属性情報や位置情報データを収集し、マーケティングサービスの改善に活用しました。マンションの開発会社は、Laspyが提供する防災備蓄の保管・管理・提供のサブスク型サービス「あんしんストック」を新築賃貸マンションに導入しました。
今回は物流、住宅・設備、移動・モビリティ、都市OSの4領域の中から5社を紹介します。
MODE, Inc.(東京都中央区)の上田学CEOは、Googleで2人目の日本人エンジニアとしてグーグルマップの開発リーダーを担当。Twitterに移った後は開発チームのマネジメント職として活躍し、米シリコンバレー発のスタートアップとして起業しました。提供しているのはソリューション型 IoTプラットフォームの「BizStack」。40種類以上のセンサーを活用し、遠隔監視やモニタリングを現場の運用に最適化して実現、さらには全体のデータ活用を可能にします。
東大発の位置情報ベンチャーであるLocationMind(東京都千代田区)は、人流データを見える化したダッシュボードなどを開発しています。データパートナーである企業から提供されるさまざまな位置情報データを組み合わせ、東大研究室発の分析力により、大企業や行政が次の施策を模索する際のパートナーとして活躍しています。トラックのビッグデータを使って大寒波の被害分析を行ったり、スマートフォンのビッグデータを活用して、東京駅の1時間先の混雑を予測したりしています。
LOMBY(ロンビー、東京都品川区)は、IoT宅配ロッカーと連携し荷物積載の自動化を行うことで、現場に人がいなくても配送作業が可能となる自動配送ロボット「LOMBY」を提供しています。屋外は遠隔操作、屋内は自律走行というハイブリットなモデルで、宅配やフードデリバリーのサービスを検証しています。事業者は機体を購入する必要がなく、システム利用料で使用でき、ラストワンマイル物流を担う中心プレーヤーとして活躍が期待されます。
エイトノット(堺市堺区)は小型船舶向け自律航行プラットフォーム「AI CAPTAIN」を展開しています。20トン未満の小型船舶は事故が多いと問題視され、船舶事故全体の7割に関わっています。経験と勘に頼るヒューマンエラーが主要因です。エイトノットは、テクノロジーの力で、そうした事故を防ごうと考えており、既存の小型船舶に後付けで導入できる自律航行システムを提供しています。20トン未満の船舶であれば、エンジンやモーターを問わず後付けできるのが特徴です。
ハウディ(東京都中央区)は、独自のセキュリティ技術などを駆使して、住宅・マンションや物流倉庫などあらゆる空間のDX化をサポートしています。例えば開発を進めている自動ドアは、高齢者が通過する際には、通常より5秒長く開放され、ベビーカーが通過する際は、一歩手前のタイミングで開き始めるように、利用者に応じてドアの開閉方法を変化させています。今後デベロッパーや自治体と連携して運用中の施設で実証実験を行い、全てのモノがつながるスマートソサエティに向けて拡大を続けていきます。
地球温暖化対策などを背景にスマートシティに対するニーズは途上国でも高まっており、日本政府は輸出支援の強化に乗り出しています。スマートシティ関連ベンチャーの動きは、さらに加速するとみられます。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部 スマートシティユニット長
濵 ミエ(はま・みえ)
大手SI業界の企業でインド・中国駐在、現地企業とJV設立・新規事業共同開発を経験。デロイトトーマツコンサルティングでは公共セクター、観光・まちづくり関連企業の職務を担当。その後、起業を経験。デロイトトーマツベンチャーサポート参画後は、スマートシティ・コミュニティ・観光・まちづくりを専門に従事。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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