この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年3月16日に開催した「メタバース特集」です。
メタバースはインターネット上にある仮想空間のことを指し、(1)没入感とリアルなインタラクションによって新たなゲームやソーシャル活動体験ができる「エンターテインメント」(2)自分だけの世界を構築し、現実世界とは異なる生活を体験できる「セカンドライフ」(3)社会的地位の獲得(4)仮想通貨とバーチャルアイテムの取引による新たな収益の機会(5)時間や空間の制約を受けないことによる現実世界の効率・充実化-といった提供価値があります。
メタバースにはリアルからバーチャル、バーチャルからリアルという2つの方向性があります。リアルからバーチャルへは、現実世界をシミュレーションし実体験をデジタル化する「バーチャルミラーワールド」といわれ、現実世界での体験や効率性の向上につながります。一方のバーチャルからリアルへは、「バーチャルネイティブワールド」といわれています。もはや現実世界の模倣ではなく、独立した価値体系を形成し現実世界にも大きな影響を与えています。
例えば、AR(拡張現実)ゲーム「ポケモンGO」では特定の場所で限定クーポンを発行することによって、より多くの消費者の関心を高めています。このようにメタバースは2つの方向が発展していくことで、現実とバーチャルの両者が融合していきます。
総務省の情報通信白書によると、メタバースの世界市場は2021年に4兆2640億円でしたが、2030年には約79兆円まで拡大すると予想されています。
海外ではメタバースビジネスへの資金流入も活発です。2022年にはAnimoca Brands(アニモカブランズ)が約750億円、LootMogul(ルートモーグル)が約270億円の調達を行うなどの大型投資が実施されています。
メタバースは用途別に、大きく4つに分けることができます。
ゲーム・エンターテイメント系はゲームや娯楽を起点にリアルとバーチャルをつなぐもので、代表サービスに米エピックゲームズの「Fortnite(フォートナイト)」やマイクロソフトの「Minecraft(マインクラフト)」などがあげられます。NFT(非代替性トークン)・ブロックチェーン系は、バーチャル空間内のデジタル資産・経済圏を起点としており、「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」や「Decentraland(ディセントラランド)」が有名です。
バーチャル空間でのコミュニケーションを起点としているのがSNSコミュニケーション系。代表的なサービスはMetaの「Horizon(ホライズン)」で、国内でも「cluster(クラスター)」など有名サービスが展開されています。産業・商業系はマイクロソフトやNVIDIA(エヌビディア)などが力を入れています。
4つの領域の中でビジネスに最も密接にかかわっているのは、産業・商業系メタバースです。具体事例の一つが、国土交通省が展開するProject PLATEAU(プラトー)。現実の都市空間をデジタルツイン化したものを公開しており、人流データ分析を通じた都市マネジメントや災害時の避難シミュレーションに使われています。また、RALPH LAUREN、COACHなどの有名ブランドは、実店舗を3Dデジタル化したバーチャルストアを立ち上げ、商品をバーチャル空間上でプロモーションし販売しています。バーチャルストアの事例は、バーチャルミラーワールドに属しています。
バーチャルネイティブとして活用されているのはミーティング・コラボレーション。アバターによる仮想会議の参加や、共有ドキュメント上でのホログラフィックな共同作業などが可能です。
メタバースをビジネスとして活用するにあたっては、明確な目標と目的を定めることが重要です。「とりあえず流行っているから」「儲かりそうだからやってみる」というスタンスではなく、メタバースによって何を実現し、どのような価値を提供したいのかを明確にする必要があります。ビジネスモデルやオペレーション全体を変える取り組みとなり、複数部門にまたがってくる可能性もあるだけに、トップ層による強い推進力も求められます。
また、メタバースは定義・概念をはじめ、関連技術も幅広いため、自社技術・ソリューションにこだわる必要はなく、最適な企業といかに協業していけるかが成功へのカギとなります。
ベンチャー企業と大企業の協業も相次いでいます。Psychic VR Lab(サイキック・ブイアール・ラボ)はKDDIと共同で、都市空間にバーチャル広告を重ねて配信するサービスを提供しています。Synamon(シナモン)は三井住友海上火災保険と、事故車の損害調査のVR研修を共同で開発しています。
今回は空間利活用、デジタルコンテンツ・アバター、マーケティング・内覧・展示場、業務・コラボレーションという領域から5社を紹介します。
ポケット・クエリーズ(東京都新宿区)は、技能継承の課題を解決するためのソフトウェアとして、遠隔地から多人数が同時接続できるメタバース仕様の「iVoRi 360(アイヴォリィ サンロクマル)」を開発、提供しています。従来のVR(仮想現実)トレーニングシステムと異なり自社でコンテンツを追加できるため、外注費が不要になる点が特徴。研修だけでなく通常業務のマニュアル作成にも活用できます。今後は連携機能を搭載し、取得・作成したデータを拡張的に展開できるようにします。
アルバーチャル(東京都渋谷区)は、通常とは異なるリアルさを重視したメタバース空間を構築しています。表示されるのは本人の顔で、集う場所は実際にある場所をベースとしており、動けるZoomのようなイメージです。100業種でのメタバース実証実験を行った結果、不動産賃貸業界ではリアル店舗での接客よりも売り上げが1.5倍へと拡大。アパレルや通販、玩具業界では閲覧時間やアクセス数が上昇するなどの効果が表れています。新卒採用イベントでは、エントリー数が530人も増えました。
ARKLET(アークレット、名古屋市千種区)は、設計データからわずか3分でメタバース住宅展示場を作成できるシステム「Metavuild(メタビルド)」を展開しています。住宅メーカーや工務店の担当者は管理者画面から対象となるファイルをアップロードするだけで、建築物が生成される仕組みです。自社で完結できることで、CG制作など外注に当てていたコストを大幅に削減。コスト負担が大きい一般的な住宅展示場に代わる販売手法として、注目を集めつつあります。
X(エックス、東京都港区)は、メタバース空間で行う新卒採用合同イベント「就活ひろば」を提供しています。従来のオンライン就活は、就活サイトからの検索がメインであり、検索をしなければマッチングは難しい。これに対しスマホが1台あれば場所を問わずに参加ができる就活ひろばは、偶然の出会いがあった合同就活イベントをメタバース空間で行うため、オンラインでも短時間に多くの企業と出会うことができます。参加学生からは「ゲームみたいで楽しかった」といった声が届いています。
ゲシピ(東京都中央区)はeスポーツゲームのメタバース空間を活用した、世界初の英語コミュニケーション教育プログラム「eスポーツ英会話」を提供します。時間がない、続かない、効果がないという習い事の3つの課題を解消。ゲームメタバース空間をバーチャルな留学先のように扱うことで、英語でのゲームコミュニケーションから日常会話、戦略的なディスカッションまで学べるようにしています。今後は対象年齢を拡大し、海外展開も目指します。
メタバース市場ではこれまで、ゲームやエンターテインメントがけん引役を担ってきました。今後は製造業などのBtoB(企業間取引)で普及が加速。総務省の情報通信白書によると、2030年の世界市場は約79兆円に拡大する見通しで、メタバース系ベンチャーの活躍の場は一気に広がりそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
Innovation Solutions事業部
浮島 望(うきしま・のぞみ)
■経済学修士(一橋大学)
行動経済学・実験経済学を専攻し、在学中にRAとして不確実性下での投資行動に関する経済実験研究と、商業施設の混雑緩和を目的としたEBPMプロジェクトに従事
■現職では以下の業務に従事
・メタバース領域のSU調査・コンサルティング
・スタートアップのアクセラレーションプログラム運営兼アクセラレーター
・新規事業開発支援ツールのPD
■好きな3DCGゲームは「#コンパス 戦闘摂理解析システム」
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
—————————————————————————————————————————————-
Morning Pitchでは、上記のような各回テーマ概観の解説を
資料や動画にして有料会員様限定でお届けしています
解説資料・・・Morning Pitch有料会員
解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員
—————————————————————————————————————————————-