モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

 

今回は、2023年3月2 日に開催した「HR特集」です。

人事領域のDX化をサポート

HR領域で注目されているトレンドの一つが、人的資本経営です。人材を「資本」として捉え、最適な配置や教育などを通じて価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のことです。社会のデジタル化が進むなか、社員のスキルやアイデアが競争力を左右するとみて、経営に取り入れる企業が急速に増えています。これまでは教育や待遇改善といったコストをかけて、人的「資源」の減少を防ぐという考え方でしたが、人的「資本」の部分にしっかりと投資を行い、成長を促していこうという姿勢へと切り替わっています。

日本でも具体的な検討が進み、2023年3月期以降の有価証券報告書では人的資本の情報開示が求められています。記載内容は人材育成や社内環境の整備方針・目標や、企業の多様性を示す女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間の賃金格差などです。

こうした動きに対応するため、ベンチャー企業のさまざまなソリューションが登場しています。クラウド人材管理システムのHRBrain(エイチアールブレイン)は、人事業務の効率化から人材データの一元管理・活用までワンストップで実現するクラウドサービスを展開。人事領域のDXのさらなる促進に加え、ESG経営、人的資本の情報開示などに対しての貢献を目指しています。ミライロはダイバーシティ&インクルージョンという観点から、障害者の雇用促進や女性の活躍推進にかかわるサービスに力を入れています。

人的資本経営には5つの重要な要素がある

人的資本経営について経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」では、5つの重要な要素があると指摘しています。また、それぞれに応じて、さまざまなHRテックによるサービスが生まれています。具体的な要素とサービス内容・領域は(1)動的な人材ポートフォリオ:タレントマネジメントシステム、アルムナイネットワーク(企業の離職者や元社員で形成されるコミュニティ)の構築(2)知・経験のダイバーシティ&インクルージョン:研究者・外国人の採用、女性の活躍推進、副業・兼業(3)リスキル・学び直し:リスキリング、外部出向(4)従業員エンゲージメント:エンゲージメントサーベイ、福利厚生サービス(5)時間や場所にとらわれない働き方:業務効率化ツール、バーチャルワークスペース―です。

大企業とHR系ベンチャーとの連携も進んでいます。主なパターンはサービス導入、パートナーシップ、サービス連携、実証実験・共同開発で、特に「〇〇」×HRで新領域を開拓しようという動きが活発化しています。その中で注目されるのがWeb3.0×HRです。

Web3.0とHRの組み合わせで、雇用の契約手続きが簡略化

Web3.0とは、ブロックチェーン技術を基盤とした「価値の共創・保有・交換」を行う経済のこと。セキュリティが高く決済・契約の中間マージンを圧縮でき、ユーザー主体のデータ管理を行えます。従来の中央集権型のWeb2.0の次に来る概念としてDAO(自律分散型組織)やメタバース、NFT、仮想通貨といったキーワードとともに注目を集めています。

この領域にHRが組み合わさると、仮想通貨による報酬や福利厚生としてのNFT、スマートコントラクトによる雇用の契約手続きの簡略化などが考えられ、国内外ではWeb3.0の要素を踏まえたサービスが出現しています。フリーランスのマッチングDAO事業を展開する米Braintrust(ブレイントラスト)は、従来のマッチングプラットフォームだと20%程度の手数料がかかるところを、Web3.0の要素を取り入れることで手数料を限りなくゼロに近づけ、フリーランスにとってメリットあるプラットフォームを提供しています。また、DAOのマッチングプラットフォームにより、一つの会社にとらわれない働き方が、より加速していくのではないかと思います。

国内の大企業もWeb3.0×HRの可能性を模索し始めています。パーソルグループのパーソルイノベーションは、シンガポールに本社をもつ、Web3.0特化型のアクセラレーター「Arriba Studio(アリーバスタジオ)」に出資。アリーバ社の支援先とM&Aや提携で協業サポートを行います。

また、HRテックの推進は、業務効率化などを通じて人間や企業の活動を減らし、脱炭素やGX(グリーントランスフォーメーション)につながります。脱炭素・GX×HRの領域でもスタートアップのサービスが注目されています。Eitoss(エイトス)は、業務改善SaaSを活用し、企業の省エネルギー化や脱炭素戦略を支援します。

今回は人材版伊藤レポート2.0が指摘する5つの重要な要素に属する領域から5社を紹介します。

世界中の研究開発人材に特化したマッチングシステム(株式会社Srust

Srust(スラスト、東京都千代田区)は、世界中の研究開発人材に特化した転職及び副業のマッチングプラットフォーム「free-ist(フリスト)」を運営しています。研究開発人材の採用に課題を抱えている企業は多いものの、採用に要する期間は約半年と長期化する傾向にあるため、free-istでは研究開発人材のスキルを見える化。自社のニーズに合った人材を迅速に獲得できるようサポートします。日本、アメリカ、欧州など、国内外の世界トップクラスのラボに所属する5000人以上の研究開発人材が登録しています。

採用から定着・活躍までの人事プロセスをデータ化(株式会社ZENKIGEN

ZENKIGEN(ゼンキゲン、東京都千代田区)は、採用DXサービスの「harutaka(ハルタカ)」と1対1面談をサポートするAI「revii(リービー)」を提供しています。これまでの採用面接は密室で行われていましたが、新型コロナ感染拡大の影響によってオンライン採用が進んだため、同社のサービスによって採用から定着・活躍までを一気通貫の形でデータ化し、分析。人事プロセス全体のDXを実現します。今後は良質なコミュニケーションを行える点を訴求し、医療、教育、介護など人事領域以外への展開も目指します。

ブロックチェーン上で履歴書や職務経歴書を確認(株式会社プロタゴニスト

プロタゴニスト(東京都中野区)は、Web3.0が国家戦略として注目されているにもかかわらず、事業開発を行える人材の発掘が困難を極めているのに対応、Web3.0に特化した採用プラットフォームを提供しています。サービスではブロックチェーンを活用。副次的なリファレンスチェックも可能です。また、独自開発した実績証明NFTを適用しており、ブロックチェーン上で履歴書や職務経歴書を確認でき、採用につなげます。こうした独自の仕組みによって、他媒体では見つけられない専門的なハイスキル人材の採用を可能としています。

若手社員の早期離職を大幅に改善するケアシステム(株式会社HRコミュニケーション

HRコミュニケーション(東京都千代田区)が開発、販売しているのは、現場任せが多い、採用後のケアを行うシステムです。本音を引き出すことにより、若手社員の早期離職を大幅に改善するデータコミュニケーションシステム「SkillBox」で、若手社員にアクションリストを提供。毎日1分程度で回答し、人事担当者がスタンプやテキストでリアクションを返し、コミュニケーション機会を創出します。人事担当者には、専属のアシスタントがサポート。適切なリアクションやコメントの文案作成といった部分で支援します。

日本で働く外国人に向けた生活支援サービス(KUROFUNE株式会社

KUROFUNE(クロフネ、名古屋市西区)は日本で働く外国人に向けて、24時間いつでも生活相談に応じるチャットボットサービスやオンライン薬局、低額手数料の海外送金、オンライン日本語教育といった生活支援サービスを提供しています。個人向けではなく、外国人労働者を雇用している企業に対し、福利厚生サービスとして展開しており、1人当たり年会費1万6500円で提供できます。サービスは今後も拡充する予定で、2023年中に12個まで増やす計画です。

 

政府は新しい資本主義の実現に向けて、労働市場改革を推進しようとしており、人的資本へのさらなる投資が見込まれます。これに伴ってHRテックの活躍の場が広がり、市場も拡大するとみられます。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

SU事業部 東海オフィスリーダー
HR領域担当  

篠原 佑太郎(しのはら・ゆうたろう)

 

リクルートにてITベンチャー・中小企業の採用支援を担当
・DTVSにてHRTech領域のスタートアップ担当
・複数社のスタートアップの採用顧問など担当
・東海エリアにおけるベンチャー創出・成長のためのエコシステム形成支援を担当
・愛知県や名古屋市、浜松市など東海エリアのスタートアップ支援事業の企画運営を担当

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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