モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年1月26 日に開催した「トレーディング・貿易特集」です。

経済・社会活動の緩和で2021年の世界貿易額は過去最高

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2021年の世界貿易額は前年比26.2%増の21兆7534億㌦。新型コロナウイルスの感染拡大によって制限されていた経済・社会活動の緩和に伴う需要の反動や、資源価格の高騰を受け、過去最高水準となりました。貿易数量も9.4%増えました。ただ、国際物流の混乱や、原材料不足による影響は解決されていないのが現状です。

21年の対日貿易額は167兆円です。コロナ禍に落ち込みはあったものの、年平均成長率(CAGR)は5%程度で推移しており、貿易取引は増加しています。ただ、輸出額から輸入額を引いた2022年の貿易収支は19兆9713億円の赤字。円安と資源高に加え輸出の伸び悩みが響き、過去最大の赤字額となりました。また、人口減少に伴う貿易実務の人手不足なども課題になっています。

貿易業務は多岐にわたるステークホルダーとの「伝言ゲーム」「バケツリレー」と例えられていますが、各ステークホルダー間で資料作成や確認作業が発生し、時間を要しているのが現状です。政府による国家間の連携協定、ルール形成や行政手続きの電子化、大企業中心のIT化は一部進んでいるところもありますが、企業間でのプロセスの効率化については各所で課題が残っています。

情報へのアクセスが課題

それを裏付けるように、貿易の円滑化に向けた事業者アンケートの上位項目には、情報へのアクセスの容易さや確実性、電子化・ペーパーレス化、物流改善といった必要措置が挙げられています。

こうした声に応えられるのがイノベーションです。解決事例としては(1)貿易書類の電子化、ステークホルダーとの共有(2)最適・最安物流ルートの瞬時見積もり(3)輸送状況の見える化(4)決済の早期化(5)貿易コミュニケーションを円滑にする機会の提供-などがあります。

世界経済フォーラム(WEF)では、「貿易をより効率的、包括的、公平にするための一連の技術やイノベーション」をトレードテックと位置付けています。革新的な技術として認知度が高いIoTやデジタル決済、ECプラットフォームなどだけではなく、AIやブロックチェーンなども実用化に向けて動き始めているのが現状です。

また、世界の貿易管理ソフトウェア市場も、各国の規制変更や大企業からの強い需要、ヘルスケアや製造業の国際貿易の急増に伴い増加傾向にあります。調査会社のフォーチュン・ビジネス・インサイトによると、2021年の市場規模は11億1000万㌦。29年は2倍以上の23億8000万㌦まで拡大する見通しで、世界規模でトレードテックに対する需要の増加が見込まれます。

大企業とベンチャーとの協業によって、貿易の課題を克服しようという動きも顕在化しています。

世界初の国境を越えた電子通関サービス

IHIのグループ会社であるIHIジェットサービス(IJS)は、衛星画像を使ったコンテナ船のリアルタイム情報、到着予測データと、シンガポールに本社を置くHAKOVOのAIを活用した電子通関プラットフォームを連携させ、世界初の国境を越えた電子通関サービスを開始しました。近年問題となっている港湾混雑の削減や、目的地までのスムーズな輸送実現に貢献するサービスとなっています。

国際物流スタートアップの3CF&Co.(スリーシーエフアンドシーオー)の荷主企業と大手フォワーダーとのマッチングプラットフォーム「LOGI―CONEX(ロジコネックス)」には、総合物流会社の日新が参画。プラットフォーム上での相見積もりの取得や発注・輸送手配指示の標準化による、物流業界全体の業務効率化を目指しています。

22年にユニコーンになった韓国のTridge(トリッジ)は、150カ国以上の農家と世界中の食品バイヤーを、仲介業者を介さずに結びつける、世界最大規模のプラットフォームを展開しています。また、サプライチェーンの崩壊といった不測の事態に備え、政府機関とも連携した販売者リストや商品の梱包・発送、決済をサポートするフルフィルメントサービスを展開しています。

今回は貿易業務に携わる幅広い分野から4社を紹介します。

業界横断型の貿易情報連携プラットフォーム(株式会社トレードワルツ

トレードワルツ(東京都千代田区)は、業界横断型の貿易情報連携プラットフォームを提供しています。貿易業界の課題として、紙やPDFなどの非効率なアナログ手続きが挙げられますが、トレードワルツは情報の改ざんが難しいブロックチェーン技術を活用。信用状や海上運送状など幅広い書類をカバーし、PDF形式ではなく構造化データで保管することによって、安心安全に貿易手続きの完全電子化を行えます。日本での実証の結果、手続きに要する時間とコストは4割以上、削減できました。特殊な知識が不要となり、人手不足の解消にも役立ちます。

輸出入コストの管理をデジタル化するクラウドサービス(株式会社PortX

PortX(ポートエックス、東京都港区)は、荷主企業の輸出入にかかわるコストの管理をデジタル化するクラウドサービス「PortX」を提供しています。多くの会社は複数のシステムを活用して収集、比較、分析して物流業者の選定を行っていますが、この方法では何度もアプリケーションを変える必要があり、非効率です。これに対しPortXでは、社内に散らばる輸出入に関わる見積もりや請求を自動でデータ化し、一元管理を実現します。今後はCO2の可視化や外航貨物保険市場への展開を目指します。

AI商社マンが対応するデジタル貿易プラットフォーム(株式会社STANDAGE

STANDAGE(スタンデージ、東京都港区)は、DX化の遅れや海外販路の不足といった中小企業の課題解決を目的とした、デジタル貿易プラットフォーム「デジトラッド」を提供しています。貿易に必要な各工程のうち、交渉はAI商社マンが対応します。最低出荷量や強み、価格帯など必ず毎回聞かれる情報をAIに学習させることで、次回以降は自動対応ができる仕組みを目指します。貿易決済ではブロックチェーンによる安全な代金回収システムを導入しています。国際物流は、即時概算の見積もりを行えます。

サプライチェーンをつなぐ製品のパスポート的な役割(株式会社LOZI

LOZI(ロジ、名古屋市中区)は、サプライチェーンをつなぐ製品のパスポート的な役割を果たす「SmartBarcode(スマートバーコード)」を提供しています。どのようなバーコードでもスマート化し、トレースできるようにするもので、貿易部分だけではなく、調達・製造の段階で荷主から輸送に移行し、販売されるところまで一気通貫で対応できます。特長の一つがトレーサビリティ。スマートフォンでバーコードをスキャンした際に識別し、異なる事業者間での共同保管を実現します。

 

 

WEFはトレードテック白書の中で、貿易のデジタル化を推進するにあたっては、グローバルなデータ移転と責任に関する枠組みや、電子取引・文書のグローバルな法的認証などが必要だと指摘しています。こうした動きは今後活発化し、トレーディング・貿易関連のベンチャーも台頭するとみられます。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

スタートアップ事業部 東海オフィス

谷本 敦(たにもと・あつし)

JETROにて日本企業の海外展開支援、社会課題解決型スタートアップの海外展開・実証事業等に従事。
東海エリアにおけるベンチャー創出・成長のためのエコシステム形成支援を担当。
地方から海外展開するスタートアップの事業創出のサポートを実施。

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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