この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2022年11月24日に開催した「KidsTech(キッズテック)特集」です。
日本では、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が低下し続けており、2020年は1.34と米国やフランス、英国といった海外の先進国に比べ低い水準です。出生率から分かるように子どもの数は年々減少しています。0歳から14歳の総人口に占める割合は2021年時点で11.8%。約40年前から半減しています。内閣府によると2030年代後半には10%台となる見通しで、少子高齢化がさらに進展することは確実です。
こうした中、ベビー用品および関連サービスの市場は年々伸びており、2020年では4兆3000億円というマーケットとなっています。市場をけん引しているのは、テクノロジーを活用したサービスです。
一連のサービスが伸びている背景には、世帯構造の変化が挙げられます。2018年は全世帯の約7割が核家族であり、3世代で暮らす家庭は減少しています。共働き世帯も40年前に比べて倍増し、昔のように身内や親せきに頼ることが難しいだけに、子育てをする親はノウハウやマンパワー不足が顕著になってきています。こうした課題を克服するために導入が進んでいるのです。
テクノロジーにできることは大きく2つあると考えます。1つ目は子どもの命を守るとともに興味・関心の領域を広げることで、子ども自身の環境改善を図るものです。2つ目は支援してくれる人・場所とのつながりをサポートするような、親の子育て環境を充実させることです。
子ども自身の環境を充実させるサービスのうち命を守るという観点からは、睡眠を見守るセンサーや、ベビーモニター、居場所を確認するGPSなどが実用化されています。また、興味・関心を伸ばすといった分野では、AIを活用して子どもの関心を分析したり、おもちゃや教材を提案するサービスなどが提供されています。
子育て環境に貢献するサービスは、家庭が孤立しないよう、保育園や幼稚園、地域と子どもに関する情報共有をサポートし、助けてくれる人・味方を増やすことが目的です。電子化された連絡帳や写真共有サービス、地域コミュニティ、子育ての悩みを共有できるメディアなどがあります。
続いて政府の取り組みです。2018年から内閣府主導により、官民共同で子育て世帯を応援する「子育て応援コンソーシアム」という活動が行われています。今年9月末に開かれた第8回のテーマは「デジタル技術を活用した子育て分野での課題解決」で、子育てにデジタル技術を役立てようとする動きが活発化しています。
その場で具体例として紹介されたものは、経済産業省と神奈川県小田原市が共同で行っている実証実験です。小田原市の子育て世代から寄せられた(1)子どもが寝ないため親も睡眠不足になっている(2)地域のつながりがなく子育て情報が分からない-といった問題を解消するため、2社のスタートアップのサービスを利用しています。どちらもMorning Pitchに登壇したベンチャーのサービスで、赤ちゃんの睡眠を支援するファーストアセントのデバイス「ainenne(アイネンネ)」と、PIAZZAの地域コミュニティアプリ「ピアッザ」です。
また、社会課題に応じたサービス開発や大企業との連携も活発です。通園バスへの園児置き去り事故が問題となりましたが、AIとIoTを活用して「待つ」をなくすサービスを提供するバカンは、QRコードを活用した置き去り防止システム「バカンパトキッズ」の提供を開始しました。大企業との協業事例はセコムとチカクです。スマートフォンで撮影した動画や写真を実家のテレビに直接送ることができる「まごチャンネル」を開発・提供するチカクがセコムと連携。「まごチャンネルwith SECOM」を提供開始しました。このように、自治体や企業とも連携しながらKidsTechは活用されています。
今回は命を守る、興味・関心を伸ばす、つながりを作るという3つの分野から5社を紹介します。
AiCAN(川崎市高津区)は、自治体向けの児童虐待対応支援システム「AiCAN(アイキャン)」を提供しています。システムはタブレット端末と専用アプリを用いることで、いつでも記録の閲覧・入力が可能。記録業務や情報共有を効率化します。また、個別ケースのリスクから地域全体の傾向まで、これまで蓄積されたデータの解析結果に基づく客観的な判断材料が得られます。児童相談所に勤めたり、児童虐待の調査・研究を行ってきたメンバーで構成され、これまでの知見を生かし、開発から課題解決まで伴走します。
Palett(東京都台東区)は、子どものタイプを診断し、その結果を踏まえパーソナライズしたボックスを毎月届ける幼児教育キットの定期便サービス「クラウンボックス」と、大学生シッターが幼児教育も行う「クラウンシッター」という2つの事業を展開しています。一連の取り組みを通じ取得したデータに基づき力を入れようとしているのが、子供向け事業の共同開発です。企業の事業内容に合った子供向けのプログラムを共同開発するもので、カメラメーカーであれば、カメラを活用したイベントや授業の共同開発も可能です。
ビーサイズ(横浜市港北区)が提供しているGPS型見守りサービスの「BoTトーク」は、かばんに入れているだけでGPSとAIで常時子供を見守り、その行動を学習。学校、友達の家を出た時に、普段と違う行動をとった際にプッシュ通知で親に教えてくれます。子供が巻き込まれる事件・事故は後を絶ちません。毎年1000人を超える子供が行方不明になっています。また、共働き世帯は60%超えと年々上昇し、子育て世帯の約7割が日中は保護者不在となっているため、サービスに対するニーズは高まりそうです。
Mimmy(東京都港区)が提供する「Mimmyアドベンチャー」は、日本の子どもたちと世界中の人をオンラインでつなぐサービス。日本とは違う景色を見たり、海外の文化を体験することで、興味を世界に広げ、世界や英語に関心をもってもらうことを目的としています。小学校での導入も始まり、GIGAスクール構想との相性も良く、今後も拡大を続けていく予定です。4月からは「社会科見学アドベンチャー」を本格スタート。第一線で活躍する企業の社員が、子どもとコミュニケーションを交わす機会を作ります。
スリー(東京都港区)は子どもの習慣化を家族で応援するアプリ「Welldone!」を提供しています。子供が習慣化したいことを話し合ってアプリに登録し、登録した習慣で今日やることを更新。実行すればポイントや経験値、コインが溜まるため、それらを使ってアプリ内のゲームでステージが進んだり、親子で決めたご褒美を子供にプレゼントするという仕組みです。習慣づけだけでなく、親が子供によりよく向き合うことにも効果があるそうです。現時点での利用者の約25%は、習慣化について特にニーズの高いADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴をもつ子どもの家庭です。
少子化対策は政府の最重要課題の一つ。出生数の反転を目指すのであれば、子育て世帯のニーズを丁寧に見極めることが不可欠であるため、KidsTechの存在感はさらに増しそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
Next Core事業部 Morning Pitchユニット
久保 ひとみ(くぼ・ひとみ)
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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