モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

 

今回は、2022年10月27日に開催した「Climate Tech(気候テック)特集」です。

 

プラス1.5度以内に抑えると約400兆円の経済効果

昨年、国連の気候変動政府間パネル(IPCC)から発表されたレポートでは、世界の平均気温は産業革命の前に比べて約1度上昇しており、今後も最大で5度以上上昇する可能性が指摘されています。

気候変動はさまざまな経済効果や損失をもたらすと言われていますが、例えば、日本では気温上昇を1.5度に抑えると2070年までに約400兆円の経済効果が生じ、3度上昇してしまえば逆に約100兆円の損失が発生するとの試算があります。気温上昇を如何に抑え、そこから生まれる経済効果を如何に取り込んでいくかが民間企業にとって重要なアジェンダとなります。

気候変動などサステナビリティに係る社会課題にはさまざまなステークホルダーが存在するのが特徴です。そのため、企業は、どういったステークホルダーが自社にとって重要なのか、また、そのステークホルダーが自社に対して何を求めているのかを的確に把握することが重要です。例えば、NGOは企業の二酸化炭素排出量を削減し、環境影響を最小限にさせたいと考えていますので脱炭素そのものが「目的」となりますが、機関投資家は、気候変動対応を通して企業が業績や企業価値をどう向上させるのかが関心事項なので、脱炭素をはじめとする気候変動対応はあくまで「手段」の位置づけです。

Climate Techとの協業を通して気候機会・リスクに対応

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)では、気候変動が企業にどのような機会・リスクをもたらすのかを企業が検討・開示することを求めていますが、こうした動きに対応するための有効な施策として、ClimateTechとの協業があります。

気候変動は「緩和」と「適応」二つの領域で構成されています。「緩和」は節電や再生可能エネルギーといった脱炭素の領域で、「適応」は気候変動によって起こりうる気象災害やサプライチェーン等の問題への対応に関わる領域ですが、双方の領域に係る技術がClimateTechです。

ClimateTechに対する投資家の注目は年々拡大しています。海外中心に、VCだけではなくコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も、気候変動に係る新しいファンドを数多く組成しており、多くの資金が流れ込んだ結果、Climate Techは2021年にグローバルで3兆円以上の資金を調達しました。

ブレークスルー領域への投資に力を入れるアマゾン

Climate Techには大きく分けて、8つのソリューション領域があります。エネルギーや電化、低/脱炭素製品・製法、廃棄物の削減と効率利用によりCO2排出削減につなげるサーキュラーエコノミー、炭素回収・貯留・再利用などです。

現在のCO2排出量の内、65%は既存の技術とそのレバレッジで削減できるが残りの35%は技術のブレイクスルーが必要であるとの見立てがあります。例えば、空気中のCO2を直接回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)や、波力・潮力発電は2050年にならないと一般化されないと言われおり、自社が注目するソリューションがどういった時間軸で実現できるのかという点も企業にとって重要なポイントです。

それ故に、未来の自社の中長期的なあり姿を念頭にClimate Techへの出資・協業を進めることが重要となってきますが、それを実践している代表的なCVCが米アマゾン・ドット・コムです。アマゾンは輸送や物流、エネルギーなど既存のポートフォリオに直結する領域のスタートアップには当然出資を行っていますが、自社の既存事業には一見関連が無さそうな農業や低炭素コンクリートなどの領域にも、中長期的な成長を見据えて積極的に投資しています。こうした企業が日本でももっと増えていかなければならないと考えています。

今回は再生可能エネルギーなどの分野から5社のスタートアップを紹介します。

2040年までに世界発の定常核融合炉を稼働(株式会社Helical Fusion

Helical Fusion(東京都)は、次世代のエネルギー技術である核融合の開発に取り組んでいます。核融合は水素の原子核同士の衝突・合体により莫大なエネルギーを生み出します。高レベル廃棄物を排出する原発と比べて、核融合の廃棄物は100年ほどで再利用できるなどの優位性があります。また、核融合には2つの手法がありますが、同社は、構造は複雑でも運転が簡単で、プラズマ性能も優れているヘリカル方式を採用し、2040年までの世界初の定常核融合炉稼働に向けた開発を進めています。

余剰電力を地域に供給するグリーントランスフォーメーションプラットフォーム(株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ

アイ・グリッド・ソリューションズ(東京都)は、「オンサイトPPA(電力購入契約)」を提供するグリーントランスフォーメーションプラットフォームを展開しています。通常のPPAでは、施設で使い切れる分しか発電しないため、屋根の面積を最大活用できないという課題がありましたが、同社のソリューションでは屋根の面積を最大活用し、余剰電力を地域に供給できるなどの優位性があり、既に全国数千のスーパーマーケットなどに導入されています。

海上での未病都市に取り組む(株式会社N-ARK

N-ARK(静岡県)は海上ファームや海上都市など、近代建築が最も苦手としていた海に適応する建築の研究開発に取り組んでいます。海上ファームに関してはこれまで、海上建築を手掛けるゼネコンと浜松での技術実証実験を予定していたり、海水を直接の栄養源として育てられる特殊な栽培技術をパートナー企業と開発するなどしています。海上での「衣食住同源」を通した未病都市をコンセプトに、海上都市構想のコンソーシアムも構築しています。

アプリでオーダーすると物流会社がクリアファイルなど回収(株式会社TBM

TBM(東京都)が、石灰石由来の独自素材「LIMEX(ライメックス)」を開発・販売していることは有名かと思いますが、廃棄物対策にも力を入れている事はご存じでしょうか。同社の廃棄物対策ソリューション「MaaR(マール)」では、オフィスに回収ボックスを設置し、使用済みのLIMEXとペットボトルキャップ、クリアファイルを回収します。アプリでオーダーをすると、物流会社が回収に向かい、TBMで一貫して再生する仕組みです。また、利用者は毎月付与されるポイントによりLIMEXのオフィス製品などが購入できます。

重大事故ゼロは、日本での高品質な生産体制がカギ(エリーパワー株式会社

エリーパワー(東京都)は大型リチウムイオン電池と蓄電システムを開発・販売しています。リチウム電池は発煙、発火の恐れがありますが、同社の販売する蓄電池は、モーター用で25万台、大型電池で8万台など多くの出荷実績にもかかわらず重大事故ゼロを続けるなど高い安全性を誇ります。同社の蓄電池は、戸建て住宅やアパートなどに太陽電池とともに設置されているおり、既に羽田空港や東京都中央区、川崎市などの自治体などへの導入実績があります。

 

半世紀前の第1次石油危機では、燃料高騰による狂乱物価によって戦後初のマイナス成長に転落しましたが、それらをバネに省エネなどの技術が発展しました。現在、世界は気候危機(Climate Crisis)に直面していますが、危機を好機と捉える事でClimateTechが更に発展し、世界がより成長すると考えています。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

ビジネスプロデュース事業部 兼 スタートアップ事業部 マネジャー

井村 賢(いむら・さとし)

  • 商社にてASEAN諸国でのセールス、事業投資を担当後、開発援助機関にてケニア・日本での援助プログラムに従事。その後、総合コンサルにて大企業におけるサステナビリティ経営支援や新興国での新規事業創出支援などに従事し、現職

専門領域

サステナビリティ(気候変動/Climate Tech等)、アフリカ開発

業務経歴

大企業のサステナビリティ経営支援
・サステナビリティ経営統合、マテリアリティ特定、開示支援 等

大企業の新規事業創出支援
・CVC設立/運営、スタートアップ協業、新規事業企画 等
・エリア:日本、アフリカ、東南アジア
・領域:気候変動、ヘルスケア、物流、モビリティ

アクセラレーションプログラム企画/運営
・PMF達成、資金調達支援 等
・エリア:日本、アフリカ

スタートアップ支援に係る実績
・アクセラレーション支援:複数社
・スポットメンタリング提供:200社以上

執筆

2021年9月「気候変動(脱炭素)領域におけるイノベーション活動の実態調査」
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/strategy/articles/vs/innovation-on-carbon-neutrality.html

 

 

 

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