モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年10月20日に開催した「Food特集」です。

 

2050年の市場規模は20年比で約12倍の279兆円へ

フードテックは生産、流通、加工、消費、管理という食の全サイクルをターゲットとしています。79億人という地球上の全人口と密接にかかわってくる分野であるため、市場規模も非常に大きく、三菱総合研究所の試算によると2020年は24兆円。2050年には279兆円へと急拡大する見通しです。

フードテックへの投資も増えています。米ベンチャーキャピタル、アグファンダーなどの調査によると、2020年までの投資額は年平均で36%伸び、21年は前年比で2倍近くに増加。急成長の産業だといえます。

投資金額が拡大している理由の一つは、技術が著しく進歩しているためです。地球・人類・個人はそれぞれ、サステナビリティ(持続可能性)という観点から多数の大きな課題を抱えています。こうした状況の中でAI、ロボティクス、バイオテクノロジーなどの技術が発展することによって、事業が成立し始めたという視点が重要です。また、デジタルを優先する考えが強まることによって、より環境や健康に配慮するようになったという消費者動向の変化も要因です。

サステナビリティという観点から地球、人類、個人の課題に触れたいと思います。地球にとっての重大テーマは、温室効果ガスの排出量です。全産業の中で3割は食産業における排出だといわれており、そのうちの多くを占める農業・畜産領域での削減が強く求められています。

げっぷ対策で牛がマスク

特に注目されているのは、牛がげっぷによって、二酸化炭素(CO2)の25倍の温室効果を有するメタンを大量に排出している点です。メタンの排出低減に取り組んでいるベンチャーも出てきており、ZELPという企業は牛用のマスクを開発しています。これからは牛が当たり前のようにマスクをする時代が来るかもしれません。

人類にとっての課題は、世界的な穀倉地帯であるウクライナへのロシアの侵攻によってさらに危機感が強まった、食料安全保障対策です。人口の増加と途上国の成長に伴い、とりわけタンパク質の供給量が不足する未来が予測されており、生産効率化や、従来とは異なる生産手段によるタンパク質の確保が求められています。

食料源の不足という懸念があるにもかかわらず、大量の食料が廃棄されている点も見逃すことができません。FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では生産量の3分の1に相当する約13億㌧の食料が毎年廃棄されています。食品ロスは、大量の食べ物が無駄になるだけではなく、深刻な環境負荷を引き起こします。また、魚類を除く食品廃棄物で年間110兆円の損失が発生するなど、廃棄コストは莫大で、さまざまな解決策が求められています。

個人のサステナビリティという観点では、各人が最適な食事を摂取し、栄養を確保することが難しくなっている点が指摘されています。肥満率や食物アレルギーの有病率は大きく伸びており、一般的な食事供給モデルの限界が示唆されています。

日本でも食特化型ファンドの設立などが相次ぐ

こうした地球、人類、個人が直面している課題に対し、フードテック企業はサイエンス・テクノロジーによる解決に取り組んでいます。例えばコールドチェーンは保存期間を長くして廃棄を防ぎます。フードシェアリングは、飲食店などの廃棄物直前の食品と消費者をマッチングします。こうした取り組みによって、温室効果ガスの削減や資源確保に貢献します。スマートキッチンは食の最適化を実現し、健康維持につなげます。

フードテックは海外で普及し、異業種協業による社会実装の取り組みが進んでいます。Natures Fynd(ネイチャーズ・ファインド)というたんぱく質を製造する米国のスタートアップは、米航空宇宙局(NASA)やSpaceXと連携して、宇宙空間におけるタンパク質の培養の実証に取り組んでいます。また、創業期から支援する特化型VCが大きな存在感を発揮しています。

日本でもフードテック熱は年々高まっており、異業種含めた協業、IPOやM&Aの事例が蓄積されつつあります。直近では完全栄養食を開発するベースフードが上場承認され、日本においてもフードテックが消費者・金融市場から受け入れられていることを証明しました。また、食特化型ファンドや、食品大手によるCVCの設立も相次いでおり、投資体制の専門化は進みつつあるといえます。

一連の動きを加速させるには、リスクマネーの早期化・専門化が不可欠です。海外では、創業からグロース期までを専門的に支援する体制が整っています。日本では研究開発のメインプレイヤーである大手企業が早期から投資し、事業化を支援できる体制の整備が進むことに期待が高まります。また、異業種によるコラボレーションが活発化することも重要です。消費者に対する啓発は1社だとなかなか難しいので、「食」という間口の広さをフル活用し、さまざまな企業が連携して消費者認知を高め、社会浸透を進めていくことがポイントだと考えています。

今回は開発、生産加工、流通などの4領域から5社を紹介します。

廃棄物を大量に食べるカブトムシを厳選して飼育(株式会社TOMUSHI

TOMUSHI(秋田県大館市)は、地域の廃棄物を有効活用するため、廃棄物を大量に食べるカブトムシを厳選して飼育しています。世界で最も食べられている昆虫はカブトムシを含む甲虫類であり、昆虫食としても注目を集めてきました。しかし、これまでは量産化コストがかかることから、産業化には至っていませんでした。TOMUSHIは一般のカブトムシに比べ4倍のスピードで成長するシステムを開発しており、粉末化した商品を販売する予定です。

食品を瞬間冷凍して長距離輸送に耐える(ブランテックインターナショナル株式会社

ブランテックインターナショナル(東京都千代田区)は、塩と水で作られたマイナス21度のハイブリッドアイスで、食品を瞬間冷凍できる高品質凍結技術を実用化しています。漁船や漁港で即座に冷凍できるため、30%あるともいわれる流通過程での廃棄ロスの削減や、輸出など遠隔地への商圏の拡大にもつながります。値上げが相次ぐ大衆魚の価格を平準化させ、安定供給させることも目指します。JR東日本スタートアップとの協業では、産地流通価格の2倍で完売した商品もありました。

ゲノム編集により、短期間で新たな種苗を開発(グランドグリーン株式会社

グランドグリーン(名古屋市千種区)は、ピンポイントに特徴を変える技術によって、次世代品種改良を行うゲノム編集プラットフォーム「Gene App」を提供、新たな種苗を短期間で作り出すことに貢献しています。従来なら10年かかっていた新品種の作成を1年で実現できるのがゲノム編集の特徴で、現時点ではトマト、大豆、えごま、かぼちゃの編集が可能。高糖度にしたり、健康成分を増やすといった開発を行っています。

泡盛生まれの機能性うまみ食材(株式会社AlgaleX

AlgaleX(沖縄県うるま市)は、未利用資源を活用した植物性タンパク質などを開発しています。特に培養工程に強みを持ち、泡盛の酒粕で藻を培養し、藻から有効成分を生産する技術を有しています。提供しているのは、DHAなどさまざまな高い栄養価の成分を含み、環境負荷がない泡盛生まれの機能性うまみ食材「Umamo」。DHAはサバの10倍、旨味は昆布の2倍です。うまみに加えて、サプリメントや養殖魚への餌利用が可能です。

個人ごとに異なる栄養を摂取するAI食サービス(株式会社ウェルナス

ウェルナス(東京都杉並区)は、既存の食事摂取基準に基づいて栄養素の過不足を判断するのではなく、AIの解析により、個人ごとに最適化された栄養を摂取するAI食サービス「NEWTRISH(ニュートリッシュ)」を提供しています。実証試験では、食の改善で無理のない運動負荷による運動機能の向上や、カロリーを減らさずに実現するダイエット、好みにあった食事で記憶力の向上など、すでに効果が可視化されており、サービス開発に向けて事業開発を進めています。

 

フードテック分野の日本の投資額は、最も多い米国の約2%に過ぎません。ただ、国は活性化に向けて環境整備に乗り出しており、フードテックベンチャーの活躍の場は広がることでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部 

岡部 弦(おかべ・げん)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社に新卒入社。
フードに関する経験としては、大学時代はFoodTechスタートアップにて勤務しているほか、DTVSでは、フード領域含む大企業の新規事業開発支援、スタートアップとの協業支援に従事。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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