モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年9月29日に開催した「EdTech(エドテック)特集」です。

国内市場は2023年に3000億円を突破

教育(Education)と技術(Technology)を組み合わせた造語のEdTechは、2000年代に米国で誕生し、2008年のリーマンショックの頃から活発化してきたと言われています。日本では2011年頃からEdTechベンチャーが台頭し始め、最新技術で問題を解決し、便利で快適な暮らしを目指す政策「Society5.0(ソサエティ5.0)」の実現に向け、急速に発展し始めました。小中学校に1人1台の学習端末を配備するGIGAスクール構想が前倒しで具現化されるなど、新型コロナ感染症の感染拡大もEdTechの発展を推し進めています。

EdTechの国内市場規模は2021年で2700億円弱ですが23年には3000億円を突破し、27年には3600億円ほどになる見通しです。市場が拡大する背景には、教育改革を巡る政府の方針とも密接にかかわっているようです。

日本は超高齢化社会など多くの問題を抱えているにもかかわらず、課題解決の先進国ではないと指摘されています。課題解決には、用意された答えの中から正解を探すのではなく、自ら課題を発見し、創造的に解決する必要があります。政府は教育改革によって、こうした力を備えた人材を輩出しようとしています。

ただ、学生も社会人も忙しくて学ぶ時間の確保が難しい中、そうした人材となるために「いつ」「何を」「どうやって」学べばよいのか、明確な道筋はありません。解決すべき社会課題の正体や、課題解決能力の身に付け方についても、十分に理解できていないのが現状です。

こうした問題の解決に貢献するのがEdTechです。例えば一人一人の学びの進捗に合わせ、学びを個別最適化することができるほか、学習者の関心に沿ったコンテンツや、双方向コミュニケーションの機会を提供することで、一方的に教えるのではなく学習者中心の学びを実現します。また、オンライン学習は場所を選ばないため、忙しい社会人も仕事をしながら学ぶことが可能です。

 

高校では探求学習とプログラミングが必修化

EdTechの普及によって学校教育も変わり始めています。理数系や外国語に一段と力を入れており、高校では今年の春から探究学習とプログラミングも必修化されました。探究学習では、文系理系の枠を超え、学んだ知識を社会課題や身近な課題解決に生かすことを目指しています。学ぶことが増えた分、効率的に学ぶというスタイルも浸透しつつあります。

学校現場でもEdTechの普及を促す動きが活発化しています。文部科学省は小中学校の生徒へ1人1台の端末を配布し、学校のネットワーク環境もそろえるなどハード面をサポートします。また、経済産業省は対象期間中のEdTechツール利用料を補助する、ソフト面のサポートを行っています。

社会人の学びも変わり始めています。企業は急激な環境変化に対応する人材を獲得するため、社員のリスキリング(学び直し)を促しています。必要なステップは3つで、会社にとって必要なスキルの特定と学ぶ機会の提供、継続的な学びの支援です。働くことと学びの期間を繰り返すリカレント教育といった言葉も注目されています。

 

社会人の学びも後押しし、学びを可視化

さらに社会人の学びへも、後押しがあります。1つ目は助成金で、厚生労働省による人材開発支援助成金に「人への投資促進コース」が新設されました。さらに、ESG(環境・社会・企業統治)投資への関心の高まりを受け、人的資本開示への要請も始まっています。社員の学びを支援し、さらに学びを可視化するということが、今後加速すると考えられます。

ベンチャー企業と自治体が連携する動きも相次いでいます。Life is Techは「情報I」プログラミングの必修化を踏まえ、福岡県など4県すべての県立高校にプログラミングを学べる教材「ライフイズテックレッスン」を導入しました。また、社会人の学びを支援するSchoo(スクー)はタレントパレットと連携し、人事情報を解析し一人一人に適した研修コンテンツの提供を開始しました。人的資本開示の要請を受け、今後の注目も高まりそうです。

 

今回は理系・文系の枠を超えて問題を解決する力を養うSTEAM教育と、学習支援、学習コンテンツという領域の中から5社のベンチャー企業を紹介します。

 

アフリカの人たちに高度なIT教育を提供(株式会社DIVE INTO CODE

DIVE INTO CODE(ダイブ・イントゥ・コード、東京都渋谷区)は、セネガルなどアフリカの人たちに向けたIT教育を提供しています。公用語の違いを超え、日本で就職できるレベルにまで育成できる学習コンテンツや、時差を活かした育成・開発サービスが特徴です。アフリカでは雇用の機会が不足しており、情報系大学を卒業後、2~3年経ってようやく就職先が決まるケースも珍しくありません。一方、日本国内ではIT人材が慢性的に不足しており、両国の課題を解決します。

 

オンラインでの対話を客観的に振り返り、本音を聞き出す(株式会社コードタクト

コードタクト(東京都渋谷区)は、学校向けに学習支援クラウド「スクールタクト」を提供しており、すでに2000校以上に導入、100万人が一斉授業やグループワークで活用しています。ここから得た学習方法のノウハウを企業向けにアレンジしたのがチームタクトです。オンラインでの1対1は、時間の負荷が大きく本音が聞けないといった課題がある点を考慮。「内省と対話」をキーワードにした4人による客観的な振り返りを行い、1対1では聞き出しづらい本音を引き出すサービスです。

 

TikTokのゲーム版を目指すクリエイターのプラットフォーム(株式会社しくみデザイン

しくみデザイン(福岡市博多区)は、クリエイターのプラットフォーム「Springin ‘ (スプリンギン)」を提供します。ゲーム等の遊べるコンテンツがスマートフォンのみで開発でき、AppStoreやGooglePlayの審査不要でプラットフォーム内にリリースが可能。シェアした作品は自動的にブラウザで動き、あらゆる人に届けられるのが強みです。目指すのはTikTokのゲーム版。学校教育向けはGIGAスクール端末に対応し、プログラミング未経験の教員の負担を極限まで減らすことができます。

 

自ら課題を設定し解く能力を養う探究学習のプラットフォーム(株式会社Study Valley

Study Valley(スタディバレー、東京都江戸川区)は、高校で「総合的な探究の時間」が必修化されたのに伴い、探究学習プラットフォーム「TimeTact(タイムタクト)」を提供しています。与えられた課題を解くだけではなく、自ら課題を設定し解く能力を養うことが探究学習の目的で、社会連携に特化した仕組みを導入しています。テレビ宮崎との連携では、地域課題をテーマとした探究成果を県内の企業に発表し、双方向のコミュニケーションを図ることで、新たな気づきや問いを生み出す機会を創出しました。

 

海外居住の同年代と英語でコミュニケーション(パレーゴ株式会社

パレーゴ(東京都中央区)は、独自開発したコミュニケーションの仕組みによって、海外に居住している同年代と英語によるコミュニケーションを行える、オンライン型の語学プラットフォーム「パレーゴ」を提供しています。パレーゴメールでは、海外の同年代と語学レベルを問わず楽しくメールでやり取りができ、パレーゴトークは1対1での会話が可能です。現在は小中学生向けが中心ですが、今後は大人向けだけでなく、欧州・中国語圏のサービス展開も計画しています。

 

 

ICT(情報通信技術)教育は世界の中で日本が最も遅れていた分野でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を機にオンライン対応が急速に広がりました。ベンチャーがけん引するEdTech市場のさらなる成長に期待が高まります。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

Next Core事業部 Morning Pitchユニット

久保 ひとみ(くぼ・ひとみ)

銀行で中小企業、スタートアップへの融資。その後、保育ICT系スタートアップで、保育園幼稚園のDX化に取り組む。現職では、スタートアップ個別支援や、イノベーションエコシステム構築に従事。ベンチャーと大企業の協業マッチングプラットフォームMorning Pitchの運営を行う。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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