モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年9月1日に開催した「ペット特集」です。

ペット関連市場はコロナ前に比べ2ケタ台の伸び

昨今の新型コロナウイルス禍にも関わらず、国内のペット関連市場は拡大傾向にあります。矢野経済研究所の調べによると、2022年度は前年度比約2%増の1兆7542億円で、コロナ前の19年度に比べるとおよそ12%拡大する見通しです。

また、1頭当たりにかける支出も増えており、この傾向は今後も続くとみられます。犬猫などのペットは、家族と同様に「生活に最も喜びを与えてくれる存在」と認識する人も多く、もはやペットは家族の一員となっているからです。

これに伴い、ペットの健康を適切に管理して快適な生活を提供したいという飼い主側のニーズが高まっています。その結果、新しいサービス分野として急拡大しているのが、ICT(情報通信技術)技術などを活用してペットケアを行うペットテック市場です。矢野経済研究所によると2023年のペットテックの国内市場見通しは5030億円。2018年からの5年間で7倍近い伸びを示すとみられています。

 

快適な飼育環境を下支え

ペットテックは3つの領域で製品・サービスを提供。高品質な飼育環境を下支えしています。

医療・ヘルスケアでは個体に適した栄養配合のフードが販売され、過去の受診記録との連携も進んでいます。DX・プラットフォームの領域では、飼い主同士の情報交換や里親探し、ペットケアサービスなどが積極的に行われています。IoTアイテム領域では健康・安全維持につながるウエアラブル端末、自動給餌、スマートトイレといった機器が活躍しています。これらの技術やサービスはペット長寿命化にも貢献しており、今後はますますの需要拡大が期待されます。

米国ではペットテック系スタートアップ企業の大規模な資金調達例がみられています。その一つが、犬の散歩代行サービスをアプリで提供するWag(ワグ)です。散歩の様子をGPS(全地球測位システム)で追跡しリアルタイムで確認できます。Rover(ロバー)は、犬を預けたい飼い主とドッグシッターを繋ぐアプリを提供しています。

 

新幹線でペットと同乗の実証実験

国内でもペットビジネスへの注目度は高まっており、ベンチャーと大企業の協業事例が相次いでいます。PETOKOTO(ペトコト)は東日本旅客鉄道と共同で、ペットと新幹線に同乗する実証実験を行いました。乗客は犬をケージから出し、シートや膝の上に乗せて一緒に風景を見るなど、旅を楽しみました。車内にはパナソニック製の空気清浄機を搭載し、飼い犬がケージから出た場合の空気の汚染度を計測しました。

トレッタキャッツはNECと協業。猫の排せつ状況から体調などのデータを集め、LINEによって飼い主にトーク調で知らせるサービスを提供しています。

 

今回はペット産業3領域の中から、活躍するベンチャー5社を紹介します。

クラウドを通じ飼い主と動物病院がつながる(株式会社stepdays

stepdays(ステップデイズ、東京都港区)は、飼い主と病院がクラウドでつながるプラットフォーム「ペット手帳」を提供しています。今まで電話、紙、ファックスで行っていたアナログ業務を全てデジタル上で行うことが可能。予約から問診、診察、処方、再診に至るまでを一気通貫で行えるアプリになっています。全国には1万2,000の動物病院があり約1,000カ所と提携していますが、5年後には3,000病院まで増やし、飼い主登録数は100万人を目指します。

 

動物病院専用のペットサプリメント(株式会社HACHI

HACHI(ハチ、大阪市西区)は、動物本来の免疫力を保つ動物病院専売の犬猫用サプリメント「アニミューン」を提供しています。長谷代表は獣医師である両親のもと、幼い頃からたくさんの動物たちと接し、動物病院と動物用医薬品で働いた経験を経て起業されました。確かなエビデンスのあるサプリメントを動物用に提供することで、動物の健康に貢献します。ガム界のキシリトールのように、療法食フードほとんどにアニミューンが入っている世界を目指します。

 

首輪によって健康データを取得(株式会社PetVoice

PetVoice(ペットボイス、東京都中央区)は、犬猫用のアップルウォッチのようなサービスである健康管理デバイス「PetVoice」を提供しています。デバイス付き首輪と、ホームデバイスを活用して体温やトイレ・水飲み回数など各種健康データを取得。異変を察知するとアラームが鳴り、すぐに獣医師にオンライン相談することができます。医師側は、ダッシュボードでデータを確認できるため、診療に生かすことができます。

 

ペットフードにより1頭ごとに必要な栄養をコントロール(株式会社PETOKOTO

PETOKOTO(東京都新宿区)は、保護犬猫のマッチングサイト「OMUSUBI」やペットライフメディア、フレッシュペットフード事業等を展開しています。このうちペットフードの「PETOKOTO FOODS」事業は、新鮮な犬猫用のごはんを届けるサービスです。国産食材をメインに栄養学の観点からレシピを開発し、スチーム加熱・急速冷凍することで、栄養価の高い無添加のペットフードを届けます。また、1頭ごとに最適なカロリーを算出し、定期的に獣医師や栄養士のサポートを受けることもできます。

 

心拍データから犬の心理を可視化(株式会社ラングレス

ラングレス(東京都墨田区)は心拍データから犬の心理を可視化するウエアラブルデバイス「INUPATHY(イヌパシー)」を提供します。難しい初期設定はなく、デバイスを装着させボタンを押すだけで、心拍の状態からハッピー、集中・興味、ストレス、興奮、リラックスの5つの気持ちを分析することが可能です。同社の世界初の心音特化型センサーにより愛犬のストレスや心身状態の把握を促します。飼い主がペットの不調に早く気づくことで、コミュニケーション問題の解決を目指します。

 

日本のペット関連産業は成長していますが世界市場の10%に過ぎないと推計されており、欧米に比べると成長の余地は大きいと考えています。市場を拡大させるには、より質の高い飼育環境への意識の醸成が急がれます。

また、IoTによる新サービスの浸透やペットの長寿化に伴う介護など、サービス領域の拡大も不可欠です。こうした課題に取り組むに当たっては、ペットテック系ベンチャーの働きが重要な役割を果たすと言えるでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

スタートアップ事業部

森下 翠惠(もりした・すいえ)

大手通信会社、民間産業調査会社、シンクタンクを経て現職。日本企業の新規事業の展開に向けた海外産業動向や産官学連携の調査、海外展開戦略策定やアライアンス支援実績多数。現職では、自治体や金融機関を含む異業種間とスタートアップの協業支援の他、スタートアップの技術を活用した海外展開支援プログラムの企画運営に従事。

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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