モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年8月25 日に開催した「伝統イノベーション特集」で、伝統工芸と伝統芸能・文化に焦点を当てました。

 

伝統工芸品の生産額は二十数年で5分の1に

伝統工芸品は1980年代以降、従事者数や企業数が減少の一途をたどっています。これに伴い生産額も大幅に減少し、伝統的工芸品産業振興協会によると2013年の生産額は約1000億円。1990年に比べると実に5分の1の水準まで落ち込んでいます。

残念ながら認知度も決して高くはありません。国内の主要な伝統工芸品に関して実施したアンケートによると、41品目の中で認知度が70%を超えたのは、江戸切子(東京都)や西陣織(京都府)、輪島塗(石川県)などわずか6品目でした。逆に30%を切る品目は全体の4割に相当する16品目でした。また、購入経験が2割を超えるものはなく、最も多かったのは伊万里・有田焼(佐賀県)の15.7%でした。

このままでは古き良き日本の伝統が消滅する恐れもあります。

 

そうした事態を回避するために注目しているのが、外国人観光客の受け入れ再開です。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、アジア在住の外国人に「コロナの終息後に旅行したい国・地域は」と質問したところ、日本と回答した割合が約6割と圧倒的に多かったからです。人気の理由は自然景観や神社・仏閣などで、日本の伝統に強い関心を抱いていることが分かります。

 

イノベーションで伝統を残し、広め、伝える

伝統を残し、広め、伝えるには、これまでの手法を踏襲しているだけでは限界があり、次世代に合わせたイノベーションが不可欠です。それによって価値を継承しながら、今の時代に合わせてより魅力ある伝統に変化させ、世界中に認識してもらうことが必要です。また、子供たちには伝統の素晴らしさを伝えなければなりません。

一連の課題を解決するために重要な役割を果たすのが、伝統とイノベーションを組み合わせた「伝統イノベーション」という考え方です。

イノベーションを支えるのはサブスクリプションやプロデュース、プラットフォーム、体験です。これらを駆使して、需要やニーズが限定的でビジネスモデルが古く、後継者不足といった、伝統工芸の衰退要因の解決に挑みます。

花と和食器が毎月届くサービス

伝統イノベーションによる新たな事業例をいくつか紹介します。日本各地の和食器のサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」を展開するCulture Generation Japanは、日比谷花壇と提携。花と和食器が毎月届くサービスの提供を開始しました。

伝統工芸品の企画販売を行う「和える」は職人によるオンライン化の支援に乗り出し、日々の暮らしで使える伝統品をそろえたECサイト「aeru gallery(あえるギャラリー)」を開設しました。アイスやスープを抜群の口触り味わえる津軽塗りスプーンなどを用意しています。

 

職人技による地域限定のグラスやマグカップ

JTBグループの米国現地法人であるJTB USAは、日本製品を世界に発信しているKAZAANA(カザアナ)と業務提携を行い、米国人向けに34ブランド・約1200の日本の伝統工芸品を販売するECサイトの運営を開始しました。日本に比べ米国のEC購入者の割合は高く、伝統工芸品の販売を通じて、日本に対する米国人の関心がさらに高まっていくことが期待されます。

スターバックス コーヒー ジャパンは全国14エリアで、地域限定のグラスやマグカップを販売しました。江戸切子職人によるアイスグラス(東京都墨田区)や、木製のマグカップ(岐阜県飛騨高山市)などです。この取り組みによって伝統工芸にあまり縁がなかった若者が、身近に触れることができるようになりました。松竹は、時間や場所を問わず歌舞伎の観劇体験ができるAR(拡張現実)コンテンツをリリース。獅子が毛を大きく振る場面などでは、実際の舞台公演にも劣らない躍動感と迫力を表現しています。

 

今回は伝統イノベーションに不可欠な、サブスクリプション、プロデュース、プラットフォーム、体験の分野から5社を紹介します。

匠の技を学べるプラットフォームを提供(株式会社Qrethon

Qrethon(クレソン、京都市南区)は「体験以上、弟子未満」という新しい職人と消費者の関係を構築するため、匠の技を学べるプラットフォーム「週末工芸」を提供しています。伝統工芸のキットを購入し動画コンテンツを活用することで、いつでもどこでも製作に取り組むことができます。伝統工芸士にはキットの開発費や、リアルな講座費を支払います。職人と現実でのマッチングをすることで、地方創生やツーリズムの活性化を目指します。

 

技能承継をAIで分かりやすい形に変換(株式会社LIGHTz

LIGHTz(ライツ、茨城県つくば市)は、技能承継をAIで分かりやすい形に変換するサービスを提供しています。伝統工芸品に代表されるものづくりだけではなく、製造業のノウハウや地方銀行の営業など、さまざまな承継に活用できるソリューションで、引継ぎにかかる時間の短縮や、若手の養成に効果的なのが特徴です。大手企業との連携も相次いでおり、EV(電気自動車)シフトに伴うガソリン車の技術伝承といった使い方がされています。 1割にも達していなかった若手だけで完結する仕事の割合が、3割まで増えたなどの効果も表れています。

 

伝統工芸品を買取り、飲食店や家庭に月額定額制で貸し出し(株式会社Culture Generation Japan

Culture Generation Japan(東京都中央区)は、和食器のサブスクサービスを提供しています。伝統工芸産業では後継者がいないため廃業するところは多く、今後も消えていく技術が非常に多いのが現実で、こうした技術を次世代に残そうと活動しています。具体的には有田焼や瀬戸焼、漆器や江戸切子など、幅広い種類の伝統工芸品を買取り、飲食店や家庭に月額定額制で貸し出します。今後は和食器からインテリアへと領域を拡大し、海外展開などで流通規模を増やしていきます。

 

海外旅行客が日本の伝統文化を簡単にオンライン予約(ディーパートラベル株式会社

ディーパートラベル(東京都世田谷区)は、海外からの旅行客が日本の伝統文化や地域の自然体験を簡単にオンラインで予約ができるサービス「Deeper Japan」を提供します。全体験が各界のプロフェッショナルにより厳選されており、工房の見学や観劇、自然体験など100ほどのプランを用意しています。情報収集などを踏まえ、当社のチームがすべてのプランを作っており、「そもそもどのような文化があるのか分からない」、「触れる機会と場が分からない」といった旅行客の不満を解消します。

 

職人と消費者を直接つなぐ(ゆうらホールディングス株式会社

ゆうらホールディングス(東京都千代田区)は、職人と消費者をつなぐ「匠ワンストップ」事業を展開しています。店舗や売り場を通じて顧客のニーズを収集し、職人に伝えることによって、1~2か月というスピードで商品化。ECサイトではAR技術の活用で、オンラインでもリアルな購買体験を生んでいます。同社を通すだけで消費者や販売チャネルに商品を直接提供できるようになった分、価値ある商品を適正価格で販売し、職人にも還元できるようになります。今後は国内出店に力を入れ、バーチャルショールームの開設や海外進出を考えています。

 

新型コロナ対応の水際対策の緩和で、個人の外国人観光客が日本を訪れるようになりました。新型コロナが流行する前は個人客が訪日客の主体でしたが、徐々に回復すると思われます。この層に対し、伝統イノベーションを通じた新たな伝統工芸・文化の姿を訴求できるかが、課題となるでしょう。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部 兼 Next Core事業部 Morning Pitchユニット

坂口 智沙都(さかぐち・ちさと)

大手2社(金融、IT)、ベンチャー3社(Fintech、ウェブ接客、O2Oソリューション)を経て現職。​IT企業では大手広告代理店プロジェクト担当としてヘルプデスクやインフラ管理に従事。​ベンチャーではCustomer Support Specialistとしてカスタマーサポートチームの立ち上げを実施。​​現職では、Morning Pitch運営を担当。Morning Pitchの運営改善に取り組む。​伝統に関する経歴としては日本舞踊を3歳の頃から習い続ける。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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