この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2022年7月14日に開催した「観光・レジャー特集」です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う渡航制限等によって、観光業界は苦しい状況が続いています。UNWTO(国連世界観光機関)によると、2021 年の世界全体の国際観光客数は4億 2100 万人。前年より約 1800 万人増えましたが、19 年比では 71.3%も減りました。
こうした中、日本にとって明るいニュースが飛び込んできました。世界経済フォーラム(WEF)が発表した21年版 「旅行・観光開発指数」の世界ランキングで、2007年の調査開始以来、日本が 初めて首位を獲得したのです。鉄道サービスの正確さや公共交通機関の本数、アクセスの良さ、世界無形文化財の数などが高い評価を受けました。
ただ、日本を含むアジア太平洋地域は、インバウンド観光市場の回復が遅れそうです。専門家の8割近くが、24年以降に回復すると予測しており、世界で最も回復が遅れる地域になりそうです。21年に訪日外国人が国内で消費した額は1000億円で、過去最多の3188万人が訪れた19年に比べ3%を下回る水準です。これに対し日本人の消費額は9兆3000億円です。19年比で6割の水準にまで落ち込んだとはいえ外国人の消費額を大幅に上回っているだけに、当面は日本人による国内旅行の需要獲得に注力する必要があるでしょう。
その国内は、COVID-19を契機に密を避ける傾向が強まっており、地域に分散する動きが顕在化しています。新たな旅行スタイルを提案する上で大きなチャンスだと認識しています。
観光客の分散を推進するには3つのポイントがあります。
一つ目が目的の多様化です。今はテレワークや複業の解禁など組織や地域に縛られない柔軟な働き方、趣味や教育などで地域を訪問する理由は多様化しています。このため「観光資源は何か」といった点にこだわるだけではなく、「多様化に対応できるコンテンツは何か」「受け入れ態勢をどのように整備するのか」といった観点でベンチャー企業と連携することが重要となってきます。
例えば人材不足も一つのコンテンツで、人を呼び込むことも重要な戦略です。複業人材のプラットフォームを運営するAnotherworksでは自治体と複業人材のマッチングなどを行い地域の行政課題解決に取り組んでいます。
二つ目は、密を避けるのと同時に混雑回避のため、移動や宿泊でプライベート空間を提供できるようにすることです。こうした要望に応えられるベンチャーが大企業と連携したり、大型の資金調達に成功しています。キャンピングカーのシェアリングサービスを提供するCarstay(カーステイ)は、損害保険ジャパンと業務提携し、新たなライフスタイルの定着を目指しています。また、地方には歴史的建造物や自然公園などユニークベニューもたくさんあり、こうした場所の有効活用も重要です。
三つ目はローカル志向です。COVID-19によってマイクロツーリズムというキーワードに注目が集まるようになりましたが、今まで気づかなかった近場の魅力にはまった方もいるのではないでしょうか。また、近場以外の旅行地でも同じようなことが進んでいくのではないかと考えています。これに伴い情報発信の方法も、従来の一方通行で画一的なものから、名所に詳しい方や地元の方、趣味を持つマニアのような方が「この地域を廻ったら面白い」といったボトムアップ・分散型の発信法が普及すると思っています。デジタル観光ツアーアプリを開発するスポットツアーは無料で無人観光ツアーをつくることができ、多数の自治体・鉄道会社などで活用されています。日本郵便株式会社とも連携し郵便局長おすすめツアーなどを配信しています。
スタートアップ企業による観光領域のDX化にも注目が集まっています。北海道の余市町はふるさと納税の返礼品として、「あるやうむ」が提供するふるさと納税NFTの技術を用いて、NFTアートの返礼品の提供を開始しました。返礼品は余市町の特産品であるワインをモチーフにしたアート作品で、54種類を用意しています。
今回は教育、仕事、交通、体験・ガイドという4つの分野から5社を紹介します。
via-at(ヴィアート、茨城県つくば市)は、コワーキングスペースやシェアオフィス、店舗スペースなど、仕事用のワークスペースを、アプリひとつで共通利用できるという地域活性化につながるサービスを提供しています。導入の際には、ICタグの設置のみでスタートでき、人的コストの追加も必要としません。利用の際にも、決済手続きが自動で行われます。茨城県や栃木県内の自治体で利用できるワークスペースを増やしており、当面の導入目標は全国200地域です。
BLANC(ブランク、東京都渋谷区)は、移動型客室を活用したホテル事業を展開しています。建築規制の厳しいエリアにも展開でき、自然環境へのインパクトも最低限に抑えられているため、宿泊者は手つかずの自然とシームレスにつながる、という感覚を体験できます。移動型の客室は投資商品として供給され、今後は、3年間で100棟のホテルを立ち上げプロダクト開発を進め、「移動型×○○」という新業態を作り上げていきます。
エアシェア(北海道帯広市)は旅行者と航空機オーナー、パイロットの三者をWeb上でマッチングする日本唯一のサービスを展開しています。現在は11機の飛行機・ジェット機、16機のヘリコプターが登録されています。既存の公共交通機関とも競合せず、主要な駅や空港からのラストワンマイルとしても相性が良く、地域側では遊休スペースをヘリ離発着場として活用できます。これからの旅行交通系スタートアップとして注目の存在になることが予想されます。
ビーブリッジ(東京都千代田区)は、AR(拡張現実)を活用したお出かけ情報シェアリングサービス「coconey(ココニー)」を提供しています。ARナビでは、リアルタイムの映像をスマホの上部に示すことで、目的地までのスムーズな移動が可能。従来の地図アプリの「現在地がどこかわからずグルグル回ってしまう」「目的地近辺で案内が終わってしまい、なかなかたどり着けない」といった問題点を解消し、その場でしか体験できないコンテンツを届けます。
キッチハイク(東京都台東区)は、地域と子育て家族をつなぐ親子ワーケーション「保育園留学」を提供しています。移住体験施設や宿泊施設を滞在場所にすることで、仕事と生活を両立できる環境の中で1週間以上の長期滞在を可能にし、地域の事業者と連携。地域ならではの体験を提供し、親子そろって地域への愛着を育みます。今後は全国展開だけでなく、ふるさと納税や他事業との協業を含め、ユーザー体験と地域価値の向上を進めていきます。
今後、インバウンド(訪日外国人客)の受け入れ拡大をめぐる動きが活発化するとみられます。ただ、インバウンド需要が本格的な回復基調をたどるには、しばらく時間がかかりそうです。観光に対する日本人の潜在需要を引き出すことは喫緊の課題で、観光・サービス系ベンチャー企業による新サービスへの期待感は高まります。
大学卒業後大手PR会社に入社。プロモーション業務や営業職を経て大手ディベロッパーにて街づくり・ブランディング・就業者や来街者向けの機能導入業務等に従事。
当法人に入社後は主に地方自治体や官公庁に向けたスタートアップとの実証実験等協業促進支援事業や起業家育成アクセラレーションプログラム等の企画・運営およびプロジェクト伴走支援を行う。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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