この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2022年7月21日に開催した「シード・アーリー(協力:Meetup Session)特集」です。
政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と定め、今後5年間でスタートアップの数を10倍に増やすことを視野に、年内に5カ年計画をまとめる方針です。
起業の成功指標の一つが、企業価値10億㌦(約1400億円)以上のスタートアップ「ユニコーン企業」になることです。日本もAI開発のプリファードネットワークスなどを輩出していますが、その数は21年末でわずか5社。米国の約1%に過ぎず、中国(171社)、インド(54社)はもちろんのこと、フランス(20社)や韓国(11社)にも及ばず、世界との差は開く一方です。
とはいえ、日本のスタートアップを取り巻く事業環境は決して悪くありません。ユーザーベースによると21年の投資額(確定分)は前年比46%増の7801億円。年間ベースでは過去最高となったからです。実際には8500億円程度になる見込みです。ただ、他の先進国に比べるとまだまだ見劣りしている状況で、米国の3%にも達していません。
スタートアップの資金調達ラウンドは相場が低い方から順に、プレシード、シード、シリーズA(アーリーステージ)、シリーズB(ミドルステージ)、シリーズC(レイターステージ)といった形で推移していきます。ベンチャーキャピタル(VC)による投資先にも変化が表れており、ベンチャー白書2021によると、シード・アーリーの比率は20年度が64.9%。19年度に比べ4.6㌽拡大しました。ジェネシア・ベンチャーズが100億円の3号ファンドを設立するなど、シードVCの大型化も進んでいます。
また、東京商工リサーチによると21年に新しく設立された法人は14万4622件と2年ぶりに増加に転じました。前年比の増加率は10%を超え、07年以降最大の伸びでした。日本経済団体連合会では「スタートアップ躍進ビジョン」で27年までにスタートアップの数を10倍の約10万社、スタートアップへの年間投資額を約10兆円に拡大する目標を掲げているだけに、21年の勢いをさらに加速させることが重要になってきます。
それにはいくつかの課題を克服する必要があります。その一つが都市競争力です。米国調査会社のスタートアップ・ゲノムなどによる「世界の都市別スタートアップ・エコシステム・ランキング」によると、東京は21年に9位と初のトップ10入りを果たしましたが、22年はソウルなどに抜かれ12位に転落しました。この調査は6つの評価要素によって構成されていますが、特に「人と人の接続・繋がり」に関する評価が低く、順位の押し下げ要因となっております。
こうした状況を打破するためには、人と人が接する機会の創出をはじめとしたスタートアップエコシステムの改善が必要です。このためデロイト トーマツ ベンチャー サポートでは、少しでもスタートアップ企業のつながりに貢献したいという想いで、シードステージの起業家に対するピッチ&メンタリングイベント「Meetup Session」を、毎週木曜の夜7時から開催しております。
非公開型のイベントで、毎回4社が登壇してピッチを実施、投資家、メディア、当社コンサルタントがメンターとして、60分間にわたってフィードバック・アドバイスを行います。年間で170社程度のスタートアップに登壇していただいており、AIやIoT関連のフロンティア、ヘルス、バイオ領域のテック企業等、バランスよく登壇企業を募っています。
今回はこれまでに登壇した企業の中から厳選した5社を紹介します。
Oh my teeth(東京都渋谷区)は、マウスピース矯正「Oh my teeth」を提供します。通常で週2~4回通院しなければいけないところを、LINEやAI搭載カメラアプリにより、1回で済みます。初診の際も独自開発の電子カルテを使用することによって、待ち時間なしの30分で完了。価格も従来の3分の1で提供できます。現在、海外にいながら「Oh my teeth」で歯科矯正を行っているプロアスリートも存在し、今後はこうしたリモート歯科矯正を広げるため、導入クリニックの拡大を目指します。
カミカグ(東京都墨田区)の和田亮祐代表取締役は大学在学中に、8 回の引っ越しを経験し、安い家具をネットで購入しては捨てるという生活を送りました。その経験を踏まえ変則的なライフスタイルに合った、段ボールを素材とする家具「カミカグ」を提供しています。一つの商品につき、A2サイズの強化段ボールを40枚ほど使用。耐荷重性にも優れ、それでありながら重量は木製家具の10分の1程度と、移動や持ち運びをする際に便利です。一般的な段ボール家具とは異なり意匠性に対する評価が高く、「お洒落家具」としての需要も高まっています。
any style(東京都渋谷区)は声優・キャラクターから届く一対一感覚のメッセージアプリ「dear.」を提供しています。ジャニーズや乃木坂46など坂道グループと呼ばれるアイドルたちがメッセージサービスを展開しており、億単位の売り上げを計上している実績があります。これを2次元で行おうというのが「dear.」の発想です。今後は人気アニメの商品化権利を得て、コマースとしての展開を目指しています。
LOOVIC(東京都中央区)はスマートフォンを見ずに目的地に到達できる、首にかける移動自律支援デバイスを提供しています。視空間認知障害など、空間認知を苦手と感じる人を対象としたサービスです。視空間認知障害者のサポートは家族の支援頼みになっており、こうした課題を解決します。食品宅配サービス業やガスの検針など、両手がふさがっており、スマートフォンの画面でナビを見られない業者にも適した機器です。
Check Inn(東京都港区)はECプラットフォーム「Shopify」の宿泊版ともいえるサービス「Check Inn」を提供しています。宿泊施設の予約一体型ホームページを、プログラミング不要で簡単に構築できるようになります。これによって難しい技術や知識が必要とされていたホームページの構築を直感的に行えるようになり、それぞれの施設が独自の魅力を簡単に表現できる世界を実現。海外に比べ遅れている日本の観光業界のDX化を後押しします。
世界の時価総額ランキングを見ると、AppleやMicrosoftなど米シリコンバレーに拠点を構えるテクノロジー企業が席巻しています。こうした〝テック・ジャイアント〟を次々と輩出したことが米国の国力を上げたと言っても過言ではありません。日本でも、シード・アーリー期スタートアップの活躍に注目が集まります。
新卒で大手百貨店に入社し、主に投資計画や改装計画の策定に従事。また、新規事業立案やテナントリーシング、イベント企画を行う中、様々なスタートアップ企業と連携。デロイトトーマツ入社後は大手企業に対する新規事業開発コンサルティングやスタートアップ企業の経営支援、新規事業開発部門での事業開発に従事。東京都から受託するASACや高校生起業家養成プログラムでは起業家のメンターを担う。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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