この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2022年7月7日に開催した「40 代起業家特集」です。
政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけています。今後5年でスタートアップ企業の数を10倍に増やし、一気にスタートアップ大国へと押し上げる計画です。その過程でカギを握るのが40代起業家です。さまざまな業界で一定の実績を残したクオリティの高い人が多く、他の世代に比べ事業が成功する確率が高いからです。
起業大国でもある米国では40代起業家が活躍する傾向が強く、マサチューセッツ工科大学のピエール・アズレイ教授の研究によると、起業家の起業時の平均年齢は42歳です。ベンチャーキャピタル(VC)が支援するスタートアップ企業のトップの年齢層も40歳前後です。
日本でも起業時の平均年齢は上昇傾向にあります。日本政策金融公庫の「2021年度新規開業実態調査」によると、開業時の年齢は40歳代の割合が最も高く36.9%。開業時の平均年齢は43.7歳です。
出典: – 2021年度新規開発事業踏査 日本政策金融金庫
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_211129_1.pdf
起業家といえば若いイメージがあります。黎明期にある産業に関しては、斬新なアイデアを武器にリスクを背負って事業に取り組む若い世代が有利と言えるでしょう。Facebook社(現Meta社)に代表される米国のITサービス企業が、学生起業家や20代社長により爆発的に伸びたのが代表的な事例です。また、業界のネットワークが成熟していない時点では、どの年代も平等なチャンスがあり、特に若手の新鮮なマインドがプラスに働く傾向が強いと言えます。
成熟した業界に新しい切り口で改革を挑む役割は40代起業家が適任です。確かに若年層と比べて、起業のアイデアといった部分では斬新さに欠けますが、20年ほどの社会人キャリアで培ったスキルとネットワークは優位性があり、事業開発経験を踏まえた上での進出であれば、成熟市場でも需要を見つけ出すことができるからです。まさに起業家の即戦力世代といえるでしょう。
世界的に著名な経営者をみると、Netflix の共同創業者であるマーク・ランドルフ氏は42歳で起業しました。また、ビル・ゲイツ氏やスティーブ・ジョブズ氏、ジェフ・ベゾス氏などの著名な起業家は若くして事業を立ち上げましたが、急速に成長したのは40代から50代の間です。
直近の1年間の動きを見ても、40代起業家ならではの信用力・実績・人脈により、大物エンジェル投資家や有力VCから資金を調達する事例が相次いでいます。リンクアンドモチベーションの元取締役である麻野耕司氏が代表を務めるナレッジワークや、NewsPicksの元編集長だった佐々木紀彦氏が代表を務めるPIVOTなどです。連続起業家のような形で成長しており、これも40代起業家の特性と言えるでしょう。
今回はさまざまなカテゴリーの中から、4社を紹介します。
アガサ(東京都中央区)は、臨床研究や治験のDX化、ペーパーレス化を推進する文書管理SaaS「Agatha(アガサ)」を提供しています。鎌倉千恵美社長は製薬企業向け文書管理システムの開発・サポート、販売を行う米企業の日本支社代表を務め、その当時のメンバーとともに2015年に起業しました。アガサでは、開発から製造までをクラウド上で一元管理するため、メンバーや部署間での共有が可能で、日米欧の法規制に対応しています。今後は、さまざまな企業とパートナーシップを組み、2025年にはグローバル比率を7割にまで高める計画です。
訪⽇外国⼈旅⾏者向け観光プラットフォームサービスを提供するWAmazing(ワメイジング、東京都台東区)の加藤史子CEOは、リクルートで観光関連の新規事業を立ち上げた実績を持つ、40代を代表する女性起業家の1人です。日本国内22か所の国際空港に、到着時に無料SIMカードを提供する機器を設置しており、スマートフォンやパソコンなどによって免税価格で注文でき、出国時の空港で商品を受け取ることができる免税ECサービスを展開。日本におけるインバウンド需要の復活に向けたけん引役として期待が高まります。
Zuitt Technologies(ズイットテクノロジーズ、フィリピン)は、日系企業がフィリピンにITの開発拠点を開設できるようにするためのサービスを提供しています。加藤智久社長は連続起業家です。「仕事がない」というフィリピンの大学生の声を踏まえ、2007年にフィリピン人講師から英会話授業を受けられるサービス「レアジョブ」を立ち上げました。事業は成功し、2014年に上場しましたが、「自分は上場企業の経営者の器じゃない」といった思いが募ります。このためフィリピンでITエンジニアを育成し、日系企業の拠点開発をサポートするビジネスを16年に立ち上げました。
FinancialAcademy(ファイナンシャルアカデミー、東京都千代田区)は、日本初の商標登録サイトを立ち上げた泉正人代表取締役が20年前に設立しました。「すべての人に、お金の教養を。」というビジョンを掲げ、総合マネースクールを提供しています。 厚労省年金局の研修や中学、高校での授業にも一部取り入れられ金融教育のインフラの一端を担っており、実践的な知識を体系的に与えるコンテンツ力を強みとしています。今後はシニア層を顧客に持つ企業や銀行・証券会社、学習塾、通信などさまざまな領域の事業者と協業し、金融教育の普及に力を入れていきます。
日本では40代の起業家が増加傾向にあるとはいえ、IT業界などでは、豊富な経験を通じて高度な技術やノウハウを備えた人が独立し起業家として活躍するケースが、まだまだ少ないのが現状です。産業の活性化につなげるためにも、40代起業家のさらなる台頭に期待が高まります。
2010年よりトーマツ ベンチャーサポート株式会社(現 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社)の事業立ち上げに参画。2019年デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長。公認会計士。世界中の大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案まで手掛けている。起業家が大企業向けにプレゼンを行う早朝イベントMorning Pitch発起人。主な著書は『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)。新聞・雑誌・テレビ・オンラインメディア等、メディア掲載多数。「2017年 日経ビジネス 次代を創る100人」に選出。
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