モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年6月23日に開催した「エネルギー特集」です。

 

東日本大震災を契機に原子力が後退し、太陽光が台頭

日本の電源構成は2011年の東日本大震災によって、大きく変わりました。

2003年に策定された第1次エネルギー基本計画で原子力の推進が明記されたこともあり、10年の原子力の比率は25%と天然ガス(29%)に次ぐ発電量でした。

ところが東京電力福島第1原発事故により原発政策が見直された結果、20年の比率は4%まで低下しました。これに反比例する形で大きく拡大しているのが再生可能エネルギーの太陽光です。10年は0.3%に過ぎなかったのですが、家庭の太陽光発電を大手電力会社が固定価格で買い取る制度(FIT)が導入されたこともあって、20年は8%を占めています。

1990年以降のエネルギー業界の流れを振り返ると、97年が節目の年となりました。地球温暖化防止のための京都議定書が採択され、天然ガスと原子力の活用が増えて脱石油化の流れが加速したからです。

2000年代に入ると、エネルギー安全保障の観点から、さまざまな発電方法をバランスよく組み合わせるエネルギーミックスを目指す姿勢が強まりました。

16年からは電力、17年からは都市ガスの全面自由化が始まり、自由に電力・ガス会社を選べるようになりました。これに伴い異業種の参入やサービスの多様化が加速しました。ただ、電力小売り事業に新規参入した新電力は、ウクライナ情勢などに伴う世界的なエネルギー価格高騰で電力調達コストが膨らみ、採算が急速に悪化、全面自由化は曲がり角を迎えていると言ってよいでしょう。

 

 

カーボンニュートラル宣言に伴い、脱炭素がトレンドに

直近のエネルギー業界のトレンドは脱炭素化です。気候変動の国際的枠組み「パリ協定」や、その後の交渉・サミットを経て、多くの国が2050年以降に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言したからです。日本政府も50年のカーボンニュートラルを宣言し、エネルギー基本計画で太陽光をはじめ風力やバイオマスなどの、再生可能エネルギー由来電源の主力電源化を目標に掲げました。経済と環境の好循環をもたらす産業政策としてグリーン成長戦略も策定しています。グリーントランスフォーメーション(GX)の領域では、企業間で排出量を取引するGXリーグの準備も進んでいます。

また、2030年度までの温室効果ガス排出削減目標が、13年度比26%減から46%減に引き上げられました。東証プライム市場への上場会社は、気候変動にかかわるリスク・機会が自社の事業活動や収益などに与える影響について、国際的枠組みに沿って開示する必要があり、企業としても気候変動を経営における最重要課題の一つとしてとらえることが不可欠になっています。これまで培った技術を軸に、洋上風力や再生エネルギーの開発、最適な燃料の調達などを通じ低炭素社会の実現を積極的にリードする立場として、エネルギー業界に対する期待感は高まる一方です。

 

 

大手エネルギー会社によるベンチャー企業への投資が活発化

こうした市場環境を背景に、エネルギー業界はデジタルトランスメーション(DX)領域にも力を入れています。具体的にはAIやIoTによるデータの利活用や新事業開発、ベンチャー企業への投資が積極的に行われています。

大手エネルギー会社とベンチャー企業の協業事例を見ますと、スマートシティや先端技術、カーボンニュートラルといったように、分野は多岐にわたっています。

関西電力はAIサービスを手掛けるALGO ARTIS(アルゴ・アーティス)と共同で、燃料の運用計画を自動的に作るシステムを開発、作成時間を9割以上縮めました。東京ガスは非接触電力計によるIoTソリューションを提供するSIRC(サーク)と資本業務提携を締結しています。ENEOSホールディングスはwoodinfo(ウッドインフォ)との間で、森林を活用したCO2吸収・固定の推進に関する協業を開始しました。

 

今回はクリーン電力化や脱炭素に貢献する企業を中心に5社を紹介します。

 

核融合のプラント装置の製造をサポート(京都フュージョニアリング株式会社

京都フュージョニアリング(東京都千代田区)は京大発スタートアップで、安全で枯渇せずCO2を排出しない次世代の発電システムとして期待されている、核融合関連の事業を展開しています。プラズマ加熱装置や核融合燃料のリサイクルなどの研究開発に力を入れており、民間企業などと連携しながら核融合のプラント装置を共に作り上げていくサポートビジネスを中心に事業を展開しています。

産業廃棄物〝製〟の水素で電力へ返還(株式会社ジャパンブルーエナジー

ジャパンブルーエナジー(東京都港区)は産業廃棄物などから水素を生成し、電力への変換やモビリティ活用などを行っています。2020年12月から22年3月まで下水処理場で実施した東京都との共同実証プロジェクトでは、連続安定運転と燃料電池発電に成功しました。今後はCO2排出量などを大幅に抑制した、環境負荷の低い脱炭素型水素製造事業と廃棄物の減容化事業の両立を可能とするビジネスモデルを構築します。

次世代電池の進化を加速するカーボン新素材(株式会社3DC

3DC(東京都港区)は、次世代電池の進化を加速するカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)」を提供しています。化学的耐久性と物理的な柔軟性、多孔性、導電性を備えている点が特徴で、主に導電助剤としてさまざまな電池方式に参入する計画です。今後は、2024年に小規模量産体系を確立しGMSを提供、2027年にEVも含めたマーケット参入を目指し、最終的にはGMSを一つの産業に成長させます。

気候変動などの社会問題を解決する(Futures Inc.

Futures Inc.(東京都三鷹市)は、気候変動をビジネスチャンスに変える「カーボンアドバイザリー」、気候変動の緩和やSDGsに貢献する「カーボンオフセット」、投資ギャップを解消する「SDGs関連ファンド」を提供しています。これらのサービスにより、気候変動や、所得格差、生物多様性などの社会問題を解決します。今後は、中小企業にもサービスを導入し、CO2削減目標の具体化や、地域社会に貢献するカーボンオフセットプロジェクトを世界各地で行います。

全ての駐車スペースをEV対応に(ユビ電株式会社

ユビ電(東京都渋谷区)は、スマートコンセントによって安価で大規模な工事も必要なく、全ての駐車スペースをEVに対応できるサービスを提供しています。利用時はEV充電サービス「WeCharge」のQRコードが貼ってあるコンセントを見つけて充電コードを挿入し、スマホアプリでコードを読み込むことにより、同じアカウントであればどこでも充電が可能です。ユーザーには、携帯のパケット料金量制のような契約プランが用意されています。

脱炭素はビジネス拡大への絶好の機会

世界的な脱炭素の潮流は不可逆的で、自社の経営戦略に脱炭素戦略を組み込むことは必須です。こうした流れは、経営リスクというよりも新規事業などによって自社ビジネスを拡大する絶好の機会で、エネルギーベンチャーのさらなる活躍に期待が高まります。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

執行補佐

尾崎 晋作(おざき・しんさく)

通信キャリアにて、海外投資先ベンチャープロダクト/サービスの日本向けローカライズ化等による新規ビジネスの開発を経験した。その後、電力会社へ入社し、「スマホ充電器貸し出し事業」や「再エネ電力メニュー」などの新規サービス立ち上げ・推進。デロイトトーマツベンチャーサポート参画後は、通信&エネルギービジネスを中心に、事業創出・投資活動等の戦略から実行までのプロジェクトに幅広く従事している。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

—————————————————————————————————————————————-

Morning Pitchでは、上記のような各回テーマ概観の解説を

資料や動画にして有料会員様限定でお届けしています

 解説資料・・・Morning Pitch有料会員

 解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員

—————————————————————————————————————————————-