モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

 

今回は、2022年6月16日に開催した「Fintech(フィンテック)特集」です。

Fintechとは、金融(Finance)とITとの組み合わせによって創出される、新しい金融サービスです。

2021年の調達額は15年の8倍強に

日本では法的な環境整備を背景に、コロナ禍でもFintechスタートアップの資金調達金額は上昇し続けています。INITIALなどのデータによると2015年の調達額は200億円に過ぎませんでしたが、21年は1600億円を突破しました。同年の件数は前年に比べ減少しましたが、これは調達規模の大型化に伴うものです。グローバルベースでは、さらに伸びが顕著です。2021年の投資額は、前年比2倍以上の1160億ドルを超えています。

スタートアップが提供するサービスは多岐にわたります。例えば融資の領域では、インターネット経由で集めた資金を事業会社に貸し付けるソーシャルレンディング市場の規模が、拡大する見通しです。投資ではロボアドバイザーやオンライン証券、株式投資型クラウドファンディングを活用するケースが顕在化しています。業務支援では会計・労務サービスやデータ分析を導入する動きが活発です。

 

現在のキーワードは「埋め込み型金融」

日本のFintechシーンを振り返りますと、2013~16年にかけてアンバンドリング(解体)という潮流が押し寄せてきました。金融機関が一気通貫で提供してきたサービスをWEBやスマートフォンに特化することで、さまざまなFintechベンチャーが登場しました。また、金融機関のオープンイノベーションへの取り組みも加速し、どのようにFintechベンチャーと競合するのかを検討していました。

2017~20年ごろの潮流はリバンドリング(再結束)です。金融事業を単独で考えるのではなく、非金融系の大企業とFintechベンチャー、Techベンチャーと金融機関の連携が進んだ結果、新規事業としてのサービスが数多く生まれました。

2021年以降のキーワードは「Embedded Finance(エンベデッドファイナンス)=埋め込み型金融」です。金融の機能が買い物など日常の生活に埋め込まれ、無意識のうちに金融サービスを活用しているという意味で、既存のサービスの中に気軽に金融機能を取り入れる動きが加速しています。

マネロン対策の新法が成立

日本ではマーケット環境やテクノロジーに合わせ、法律改正も行われています。6月には改正資金決済法が成立しました。米ドルなどに価値を連動させる暗号資産(仮想通貨)や、裏付け資産を持つことで価格の安定性を実現するよう設計された仮想通貨である、ステーブルコインを規制します。これによって、マネーロンダリング(資金洗浄)対策を強化します。

こうした法律改正のバックグラウンドを知ることで、日本の法律は次にどこにいくのか、ということも透けて見えます。その辺りのことを検討しながらFintechのサービスを開発することが重要です。

Fintechベンチャー企業と大企業の協業も加速しており、とくに2022年に入ってからは、金融機関との提携が目立っています。Global Mobility Service(グローバルモビリティサービス、GMS)はスルガ銀行と組んで新しい自動車ローンの提供を開始したほか、インフィニティエージェントは、みずほ銀行と住宅ローン分野で業務提携しました。

国内には約200社のFintechベンチャーが存在し、今回は5社を紹介します。

 

子どもの金融教育を支援(株式会社MEME

MEME(ミーム、東京都中央区)は、子どもがデビットカードで使う、稼ぐ、貯めるを学べる、親子のお金のアプリ「manimo(マニモ)」を提供しています。日本人はマネーリテラシーが低く、学校や職場で金融教育を受けた割合はわずか7.2%に過ぎず、教える側の親にも十分な知識があるとは言えない実態を踏まえ、開発しました。今後は決済機能やお金の管理、知識を身に付けられるコンテンツを拡充する考えで、子育て世代のお金の管理市場まで広げていきます。

 

資金調達の選択肢を増やすRBF(株式会社Yoii

Yoii(ヨイ、東京都渋谷区)は未来査定型の資金調達サービスで、SaaSやD2Cといった分野の成長企業を後押しする事業を展開しています。サービスは企業の将来の売り上げを買い取って資金提供する、レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)という新しい資金調達方法です。日本ではなじみがあまりない用語ですが、英国や米国では関心が高まっている分野です。スタートアップの資金調達の選択肢を増やす上で、重要な役割を果たします。

 

労働対価の受取から決済までワンストップで提供(株式会社ADVASA

ADVASA(アドバサ、東京都港区)は、労働対価の受け取りから決済までをワンストップで行える福利厚生サービス「FUKUPE(フクペ)」を提供しています。(1)勤怠情報の自動連携をニーズやシステムに合わせて個別にカスタマイズすることが可能(2)国内外で主流になりつつある立替型スキームの基本特許を保有―といった特徴を備え、不必要な借り入れによる多重債務化を防ぎます。

 

住宅ローンの中から最適な借入先を自動診断(株式会社インフィニティエージェント

インフィニティエージェント(東京都千代田区)は、住宅ローンのDXツール「KARIKARU(カリカル)」を提供しています。1万6000以上のローンプランから、独自AIにより最適な借入先を自動診断。専門の住宅ローンアドバイザーが借り換え実行までを伴走するサービスです。過去のデータを活用し、承認率を加味したローンの提案、年間2000件の借り換え相談によるノウハウも強みです。

保険営業業務を一元管理できるSaaS(株式会社hokan

hokan(ホカン、東京都千代田区)は、保険代理店向け顧客・管理システム「hokan」を提供しています。保険業法や業界の変化に素早く対応可能な保険営業業務を一元管理できるSaaSで、組織全体の生産性を向上できます。利用ID数は約3000と幅広い業態の代理店で導入が進んでいます。今後は、保険代理店向けの顧客管理システムとしてトップシェアを獲得するため、ユーザーの付加価値向上につながる開発を進めます。

日本の家計の金融資産は21年末に初めて2000兆円を突破し、政府は貯蓄から投資への流れを後押しするプランを打ち出しています。投資に慎重な日本人の行動に変化が生じるかどうかは、Fintechベンチャーとの連携による新サービスがカギを握るとみられます。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

グローバル&インダストリー事業部 事業部長

大平 貴久(おおひら・たかひさ)

ITコンサルで金融機関に対するコンサルに従事。その後、国内雑誌出版社にて2年間で6つの新規事業を立ち上げ。その後トーマツベンチャーサポート株式会社に参画。IT&金融の知見と新規事業創出経験を活かし、ベンチャー企業支援と大企業向け新規事業開発コンサルを提供。シンガポール駐在を経て、東南アジア・インドのスタートアップと日本企業をつなぐ取組を行う。日経FinTech、週刊ダイヤモンドなど執筆、登壇多数。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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