モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

今回は、2022年6月9日に開催した「FemTech特集」です。

Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせたFemtech(フェムテック)は、女性向けの健康サービスを、共働き世帯の増加やESG(環境・社会・ガバナンス)経営の台頭に代表される現代のライフスタイルと、価値観によって再設計したソリューション製品群の総称です。

 

月経に伴う体調不良により、年間の労働損失額は5000億円に迫る

総務省の調査によると、2021年の女性労働力人口(15 歳以上人口のうち,就業者と完全失業者を合わせた人口)は平均で3057万人です。男性は 3803 万人で2011年に比べると0.6%減少しているのに対し、女性は10.4%も増えています。

女性の社会進出という流れを加速させるには、女性の健康課題に積極的に取り組み、健康経営の質をさらに高めることが求められます。経済産業省によると腹痛や倦怠感、情緒不安定といった月経随伴症状に伴う年間の労働損失額は5000億円近くに上り、通院費や医薬品費を加えると社会経済負担は7000億円に迫ろうとしているからです。女性が働きやすい社会環境の整備を進めるに当たっては、フェムテックが重要な役割を果たすといえるでしょう。

世界的にみても、フェムテック市場がこれから急速に拡大するとみられます。原動力となるのは、デジタル・SNSファースト世代が妊娠・出産フェーズ入りはじめたことと更年期(45~55歳ごろ)を迎える女性への期待です。更年期に入る女性は2025年には約11億人に達し、約66兆円のビジネスチャンスが生まれるといわれています。これから女性の社会進出が加速するとみられるアジアやアフリカといった新興市場も、ヘルスケア教育の浸透や保険・医療・治療への需要増によって、フェムテックが普及する見通しです。

進化を遂げるサービス内容

フェムテックのソリューションは、月経管理のアプリや製品からエイジングケアに至るまで多岐にわたっており、年齢層も10代から60代と幅広いです。

サービスの内容や対象も進化を遂げており、おおよそ四段階くらいに分類できます。第一段階では月経管理サービスやナプキン不要の吸水ショーツといったフェムケアなどで日本はまだこの段階です。第二段階は妊娠(妊活や不妊治療)、ベビーテックなどに対象が広がります。次の段階では、初潮を迎える10代や更年期などもカバーされ、女性の全ライフステージのソリューションが出そろいます。その先が第四段階で、デジタルヘルスや医療・バイオテックと融合した新たな治療法の発見や、予防医療などへの応用を目指しています。2010年代にフェムテックがスタートした欧米は、すでにこの領域に達しています。

一方、2020年前後にフェムテック元年を迎えた日本は、同年10月に「フェムテック振興議員連盟」が発足保険適用外だった人工授精等の一般不妊治療と、体外受精・顕微授精等の生殖補助医療について、2022年4月から保険が適用されるなど、追い風が吹いています。

薬事規制の緩和が進み、医薬部外品としての承認申請が可能に

製品関連では薬事規制の緩和が進んでいます。例えば経血吸水ショーツや布ナプキンの薬機法上の位置付けが明確になり、雑品ではなく医薬部外品として承認申請を行えるようになりました。これによって「生理向け」や「経血を吸収する」といった表現ができ、消費者がナプキンやタンポン以外の選択肢として選びやすくなります。今後も新たなフェムテック製品のチャンスが生まれる可能性があります。

企業にとって、ESGや従業員の健康という観点を踏まえた経営は一段と重要になっており、フェムテックという切り口からの戦略は新たなビジネスを生み出すとともに、自社の変革を促すことになります。

 

今回は妊活・不妊治療や女性視点に基づいた診療プラットフォーム、働く女性の包括支援やウェルビーイングといった分野から5社を紹介します。

 

不妊治療の可視化アプリ(株式会社ninpath

ninpath(ニンパス、東京都港区)は不妊治療可視化アプリ「ninpath」を提供しています。機能の一つである「みんなのデータ」では、自分と似た状況にある先輩夫婦の妊娠に至るまでの治療データを確認できるため、口コミに頼らない意思決定が可能です。また、定期的なメンタル状況をモニタリングした上でのオンラインカウンセリングも提供。クリニックの代わりにメンタルをケアし、仕事の継続などをサポートします。

 

卵子の再生力を高める不妊治療薬(株式会社Ovenus

Ovenus(オベナス、東京都港区)は卵子の再生力を高める不妊治療薬「ペプチドX」の開発を進めています。既存の医療ではできない卵子の劣化を改善し、治療成功率を高める世界初の技術です。点鼻薬を用いるため、通院に伴う精神的、肉体的、経済的ストレスを伴いません。2030年までに開発し、その後10年かけ不妊症への適応を拡大。早期閉経治療、更年期障害治療薬の開発などを目指します。

 

女性の健康課題を見える化(株式会社リンケージ

リンケージ(東京都中央区)は、オンラインによるさまざまな健康支援事業を提供しています。女性ヘルスケアサービス「FEMCLE(フェムクル)」はその一つで、問診による気づくきっかけと組織レポートを提供し、独自のアルゴリズムによって分析を行います。その上で、同社に賛同する多くの専門医のナレッジと当社独自のオンライン問診技術によって、健康課題の見える化を確立しています。

 

働く女性の健康と企業の女性活躍推進を支援(株式会社nanoni

nanoni(ナノニ、東京都港区)は、研修と従業員特典、匿名掲示板によって、働く女性の健康と企業の女性活躍推進を支援する福利厚生プラットフォーム「carefull」を提供しています。社内啓発から社員同士の学び合い、ヘルスケアサービスの利用まで一気通貫でサポートすることができます。現在は健康課題に特化したサービスづくりをしていますが、今後は育児や介護の課題にも対応し、働く女性が直面するライフイベントを包括的にサポートします。

 

凍結卵子の保管で不妊治療を改善(株式会社グレイスグループ

グレイスグループ(東京都渋谷区)は、将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合う「プレコンセプションケア」を不妊治療の解決策に掲げ、凍結卵子の保管サービス「Grace Bank」を提供しています。日本は世界一の不妊治療大国で、体外受精件数は約46万件に上りますが、成功率はアメリカの約半分に過ぎません。不妊治療を開始する年齢が遅いことと卵子の加齢が要因で、プレコンセプションケアの啓発に力を入れていきます。

世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数2021」によると、日本は156カ国中120位という結果でした。先進国の中でも最低レベルです。女性の社会進出を促すためにも、フェムテック系ベンチャーのさらなる活躍が望まれます。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

グローバル&インダストリー事業部北米統括シリコンバレー拠点長

セントジョン美樹(せんとじょん・みき)

SAPジャパンでERPシステム開発業務改革に従事。大阪ガスグループ・オージス総研海外技術営業企画。Googleジャパンにて日・米・APACのDX、広告営業。社内ダイバーシティ・組織づくり、HR特命プロジェクトもリード。2017年サンフランシスコに移住し、18年6月DTVS入所。日系企業のオープンイノベーションに携わる。日米ヘルスケア(Femtech)、HRテック、Diversity & Inclusionなどヒト中心としたデジタル・イノベーション業界に関与している。

 

 

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