あきらめない人の車いす「COGY」
株式会社TESSは東北大学発のスタートアップであり、ペダル付き足こぎ車いす「COGY(コギー)」を開発している。COGYは下半身麻痺で歩行困難な人々をもう一度自分の足で生活できるようにする世界初の足こぎ車いすである。もちろん麻痺だけでなく、腰痛やひざ関節痛による歩行困難な方でも使用することができる。通常、足を動かすときは、脳の信号が脊髄を通って足に伝わっているので、下半身麻痺の状態だと足を動かすことはできない。しかし、COGYに乗る人が足を動かせるのは、脳からの指令ではなく、右足の後は左足を動かすという、赤ちゃんが無意識に足をバタバタさせるのと同じ原始的な反射運動によるものだ。このようにCOGYは、本能的な原始反射を応用した乗り物なのである。
歩行困難者がリハビリや日常生活で使う様々な器具は数えきれないほど開発されてきた。しかし、どれも衰えた機能を補うだけのものであり、状態の回復を促すようなものではない。一度歩行困難になると、足を使う頻度が減るために結局は寝たきりになり、動けないまま亡くなってしまうのである。さらに現在約20万人の方が車いすを利用しているが、これは20万人が「自分の足で動くことをあきらめる」ことを選ばざるを得なかったということだ。このような現状を変えるべくCOGYは開発された。
難病で手足が10年以上動かなかった方は、つらいリハビリを何年間もやっていたが、COGYに乗った瞬間に強くペダルをこぎ始めることができた。動いたらいいなという期待が乗った瞬間に体感に変わり、足が悪くなる一方なのではないかという不安を取り除くことができたのだ。
COGYは乗った瞬間に自分の足で移動ができるため、リハビリ現場では乗った瞬間にリハビリにつながり、介護福祉の現場では乗った瞬間に移動機器となるのだ。
健康寿命と平均寿命とのギャップは男性が10年で女性が12年。この期間は障がいを抱えながら生活しなければならないということであり、非常につらい。しかしCOGYは、単なる移動機器としての車いすとは違い、障がいのある足も積極的に動かすことで機能回復が期待できる「最先端のリハビリ機器」なのだ。
実際に、このCOGYによって多くの人が自信をもって社会に復帰することができている。寝たきりだった人はもちろんの事、その家族も介護の負担が軽減されることで職場復帰をし、ショッピングや旅行などを楽しむことができるようになった。これはQOL(Quality Of Life: 生活の質)の向上や地域の活性化にもつながる。自分の足で動くことをあきらめず、「障がい者も健常者も共に」歩める社会の構築を目指していきたい。