Morning Pitchは登壇スタートアップと大企業との協業促進に力を入れており、M&Aや資金調達、事業提携といった領域で成果を残しています。「協業事例インタビュー」では、スタートアップと大企業の担当者に登場していただき、どういった思いや交渉を踏まえ、協業に至ったのかについて紹介します。
第4回目は株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)と株式会社さとゆめ(以下、さとゆめ)です。HISは、毎週開催のMorning Pitchに頻繁に大手町の会場へお越しいただくなど積極的に活用されています。さとゆめは地方創生に特化した伴走型の事業プロデュース会社。2023年7月20日の観光・レジャー特集に登壇しました。
株式会社エイチ・アイ・エス
法人営業本部 第二事業部 地域創生グループ 地域新規事業セクション
馬渕 龍馬 氏
1997年にHISに入社し27年間従事。カウンターセールス、本社人事、法人団体営業を経て、2012年にはベンチャー経営者が集まるネットワーク「アジア経営者連合会」の事務局長および専務理事代行を務めた。HISの海外ネットワークを活用した海外進出事業立ち上げにも参画し中小企業の支援を続け、現在は地域創生をキーワードに地域観光支援に取り組む。
株式会社さとゆめ 代表取締役社長 嶋田 俊平 氏
京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。大学院修了後、環境系シンクタンクに入社、地域資源を活用したコミュニティ・ビジネスにかかわる。2013年にさとゆめを設立(登記は2012年)。「ふるさとの夢をかたちに」をミッションに、地方創生の戦略策定から商品開発や店舗の立ち上げ、観光事業に至るまで、地域に伴走する事業プロデュース、コンサルティングを行う。2018年にホテル開発・運営を行う株式会社EDGEを設立し、代表取締役に就任。2019年8月には山梨県小菅村に、「700人の村がひとつのホテルに」をコンセプトとした分散型ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」を開業した。山形県河北町の地域商社・株式会社かほくらし社、人起点の地方創生を目指す株式会社100DIVE、JR東日本との共同出資会社・沿線まるごと株式会社の代表取締役も兼務。
Morning Pitchには2023年2月に沿線まるごと株式会社としても登壇した。
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 ビジネスプロデュース事業部 Morning Pitchユニット
藤野 菜々歩
国際教養大学 国際教養学部卒。大学入学前、在学中よりオンライン英会話大手企業や資産運用会社にてインターンを経験。その後スタートアップ業界とその支援に興味を持ち2022年デロイト トーマツ ベンチャーサポート入社。大型のグローバルイベントの運営やスタートアップの海外展開支援事業に従事し、2024年6月よりMorning Pitchの運営にフルタイムで関与。
2024年7月2日、HISと地方創生事業のプロデュースを行うさとゆめは資本業務提携を締結し、全国に”新しい目的地”をつくる地方創生事業「Destination Create Project(DCP)」を始動しました。
HISは、海外旅行の格安航空券領域の旗手であり、日本ではまだ馴染みのなかった地域を「目的地」にした旅行を提案し、成功させてきました。
さとゆめは、地方創生に特化した事業プロデュース会社として、全国50エリア以上にて計画策定から事業の立上げ・運営まで、地域に伴走しています。
両社はこれまでの旅と目的地における価値観の共有をさらに強化し、旅を観光の範疇に限定するのではなく、暮らしや人生もある種の「旅」と定義。「旅、暮らし、人生の目的」をデザインし、社会に提案していくDCPをスタート。新たな地域での事業創造を進めていきます。
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地方創生をプロデュースする「さとゆめ」と資本業務提携を締結 | HIS
共同記者会見の様子
(左から、HIS 取締役 山野邉 淳、代表取締役社長 矢田 素史、さとゆめ 代表取締役社長 嶋田 俊平氏、取締役 浅原 武志氏)
出会いのきっかけは、投資戦略本部CVC戦略グループのメンバーがMorning Pitchに参加したことです。その後、私が所属する地域創生グループとの親和性が高いとのことで紹介を受け、つながることができました。もともとHISグループは熊本の九州産業交通や長崎のハウステンボスの経営再建などに関与し、地域活性化に貢献してまいりました。海外58か国のネットワークと、ホスピタリティ精神が旺盛な人材を活かし新たな地域活性化を進めたいと考え、地域創生の事業に取り組むスタートアップを探していた時期でした。
最初のオンラインでのやり取りは、財務担当からご連絡を入れていました。その後、当社のオフィスにご訪問くださるということで、私が直接、馬渕さんと上長にお会いしたというのが経緯です。
双方が担当者レベルで関心を示し、現地での出会いに繋がったのですね。
オフィスにお越しいただいたタイミングで、「さとゆめ様へのご提案」のような形の資料を拝見し、その積極的な姿勢にこちらもスイッチが入りました。詳細は省きますが、「HISの海外のネットワーク」と「さとゆめの地方創生などの国内のネットワーク」を掛け合わすと面白いし補い合えるというお話をいただきました。私としても共感できることが多く、ぜひもっと深くお話をしたいと感じたことを覚えています。そこで、三軒茶屋で運営している地域のアンテナショップ「かほくらし」にお招きし、食事をしながらディスカッションしました。その際には、HISの役員にも参加いただき、「いくつかの協業の話を探っていきましょう!」と方向性が見えてきたという感じでした。
その1~2週間後に、沿線まるごとが開業する前の奥多摩の施設にも足を運んでいただくことになります。さとゆめ側がHISの本社へ伺うと打診しましたが、こちらへの直接の訪問を強く望まれました。
HISが現場を大切にしている会社であると同時に、フットワークの軽い社風であることを改めて認識しました。この2社だからこそ実現できる協業の枠組みを一緒に作っていけたらと、現場でも話が盛り上がりました。まさにこの日がターニングポイントになったかと思います。
両社が連携し、地域創生のモデルとなるような取り組みができればと考え、DCPが立ち上がりました。さとゆめが今まで新たに作ってきた「目的地」とHISの「旅の目的地の発掘・開拓」の精神を掛け合わせようとなり、2024年7月の共同記者会見に至りました。
HISがこれまで発見してきた旅の目的地としてどのようなところが挙げられるのでしょうか。
東南アジアやアフリカ、南米など、海外旅行の渡航先として日本人にまだ馴染みのなかった地域を新たな目的地として紹介してまいりました。HISとしては、さとゆめが今まで発掘してきた目的地である「小菅村」のような場所を、国内にて作ることができたら良いなと考えています。
HISにはまさに現場主義の精神が社風として染み込んでいるのですね。
個人的な経験としても、学生の頃バックパッカーしていた時代には、海外のマイナーな地域に行くならHISというイメージがありました。名もなき場所や風景を目的にしていくという、さとゆめの経営姿勢と同じ匂いを感じています。
HISは地域創生に関して、さとゆめよりも後発のベンチャーだと認識しています。さとゆめの知見を学ばせていただきお力を借りたい。そんな思いがありました。
最初からスムーズに進んだという印象が強いです。特に役員に奥多摩に来ていただいたことが決定打だと思いました。
さとゆめという会社はHISに似ていると役員が話していたのが印象的です。さとゆめがしっかりとその「目的地」に溶け込んでいる姿に、良い意味で泥臭いベンチャースピリッツを感じました。
良かった点、苦労した点を教えてください。
人材の新たな活躍の場を創出できたことが良かった点です。苦労した点は人事制度の社内準備です。これまで旅行関連の業務を担当していた社員が地域人材としてどのように活躍していけるのか、その辺りを嶋田社長のご協力のもと説明しました。すでにHISからさとゆめへ数名出向しており、これからDCPの枠組みで地域に派遣する社員も追加する予定です。
良かった一つ目の点は、さとゆめとして関わる地域が増えて、人材不足が万年の課題だったところをHISの優秀な人材で補えたところです。二つ目は、地域に対して新しい価値を創出できていること。HISが長年培ってきた旅行に関する知見が、モニターツアーの開発などを通して勝ちにつながっています。そちらは私たちだけではできないことでした。
多少苦労したのは大企業とスタートアップの労務管理の水準を合わせていくことです。意識を変えていく良い機会になったと感じています。
大事にしている点は、相手の事業にどれだけ惚れ込むことができるのかに尽きる。惚れ込んだからこそできる取り組みの広さや深さがあると思っています。
たくさんの会社から関心を示してもらっているが、形になるのはとても少ない。大企業と連携する際は、スタートアップ自身が背伸びし過ぎず、ありのままでいることが大事です。そうすると足りないところを大企業が補ってくれて、逆に我々が強い分野に集中できるはずです。
等身大の姿で互いを知り合い進めていくことが大事ですね。
HISの投資戦略本部はシード期からレイターステージの企業への出資や、バリューアップ支援活動を行っています。HISは創業以来、一人でも多くの人に世界に飛び出してほしいという想いを胸に、日本をはじめ世界のお客様に旅行を通じて未知なる体験の提供をして参りました。感動、ワクワク感の創造こそ、HISが期待されている価値です。そのため世界の人々の暮らしを豊かにし楽しくする新しい技術や、サービスの提供を探求しています。従来の旅行技術に関連する取り組みはもちろん、将来テクノロジーが必要とされる様々な分野で活躍するスタートアップ企業の成長支援と共に、心躍る新たなビジネスの構築を目指します。
続々と新しいDCPの取り組みが生まれていますので、注目いただけると幸いです。山形県河北町のホテルなど新しい事業ができていく予定ですので、ぜひ皆様にも開業したら遊びに来ていただけると嬉しいです。
Morning Pitchをはじめとしたピッチイベントでは、自分が描いている未来を語り、強みを投げかけてみることができます。ビジネスを成功に近づけていく非常に重要なトレーニングの場にもなるため、これから登壇いただく皆様もぜひチャレンジしてほしいと思います。
今回の協業のポイントは、フットワークの軽さと双方の現場主義でした。大企業側が役員も含めて自らスタートアップ側の施設への訪問し、リアルな体験を通してお互いの共通点を発掘していく姿勢が協業をより深める重要なポイントとなりました。HISは本事例以外でもMorning Pitchを活用して多くのスタートアップと接点の創出を続けています。さとゆめも積極的に大企業と協業して共同出資を通じた子会社の立ち上げなど、単体ではなく企業間連携による事業の拡大を進めてます。DCPを通して新しい目的地の発掘が行われることに期待します。
Morning Pitch事務局では、これまでにMorning Pitchご参加後の登壇スタートアップ様とオーディエンスの皆様との協業の事例を調査しております。
Morning Pitchがきっかけの事業提携、資金調達、資本業務提携、実証実験等がございましたら、協業報告フォームにてぜひご共有ください。
※協業された両社のご希望があれば、Morning PitchのHPにて協業事例としてご紹介させていただきますので、貴社の取り組みPRとしても活用いただけます。
※ご回答内容は事前の許可なしに公開されることはございません。
▼協業報告フォームはこちら▼
https://forms.office.com/Pages/ResponsePage.aspx?id=8UXaNizdH02vE1q-RrmZIS5vr_J599BCkTD5lDwBhJ1UMVhXS09HRzVJODNQSVpGU00xSTBCOE5GUS4u