モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年10月5日に開催したスポーツ特集です。

国内スポーツ産業市場を2025年までに15兆円へ拡大

 

日本政策投資銀行によると、日本のスポーツ産業の市場は2019年まで右肩上がりで推移しており、同年の市場規模は約13兆円でした。コロナ禍の影響で20年は約11.4兆円と、15年を下回る水準まで落ち込みましたが、昨年5月に新型コロナウイルスが5類移行したこともあり、現時点では回復傾向にあることが予想されています。スポーツ庁では2025年までに15兆円に拡大することを目標として掲げています。

スポーツ産業は複雑な要素で成り立っており、(1)アスリートやチームによる試合などのスポーツ活動(2)設備やインフラ、広告宣伝など活動に不可欠な財・サービス(3)試合の放映やツーリズム、スポーツ食を通じた健康効果などスポーツ活動に関連して存在する財・サービス―といったように、3分類に整理されます。国民の誰もがどこかでかかわってくる、広い産業の集合体と言えるでしょう。

スポーツ庁ではスポーツ産業を拡大するため、スポーツ団体と他産業との連携による新しいビジネスモデルの創出支援を重点施策の一つとして掲げています。その一環として、スポーツ団体とスタートアップが連携して新事業の創出を目指すアクセラレーションプログラムやオープンイノベーションコンテストを実施しています。

 

スポーツを活用した社員の健康支援が広がる

企業とスポーツの関わり方は、スポンサーやサプライヤー、スポーツ実業団がメーンでしたが、スポーツを活用した社員の健康支援やイベントを通じた地域の人々との関係性を強化するなど、関わり方も広がりつつあります。

例えば大手芸能プロダクションは、AR(拡張現実)スポーツ「HADO」を展開するmeleap(メリープ)と業務資本提携を締結し、プレイヤ―の発掘・育成・マネジメントや、プロダクションの所属タレントによる競技イベントなどを実施しています。大手文房具メーカーは不調を抱える社員を対象に、エクササイズの提供を通じたヘルスケアの支援をユーフォリアと共同で実施しています。プログラム終了後もエクササイズを続けている参加者もおり、社員の行動変容につながっています。

今回はコンディショニング、HR、ファンエンゲージメント、アナライズ、モニタリングという領域から5社を紹介します。

 

 

映像を自ら分析し、投球フォームの改善につなげる(株式会社RUN.EDGE)

RUN.EDGE(ランエッジ、東京都渋谷区)は、野球チーム向けの映像分析アプリケーション「PITCHBASE」を提供しています。選手自身が見たい映像を即時に検索・再生することで、自ら分析しフォーム改善に活かすなど、映像データに基づいた科学的なトレーニングを可能にしています。プロ野球の国内12球団のうち11球団が導入しており、メジャーリーグでも25%の球団が採用。2024年には50%まで拡大する見通しです。エンタープライズや教育業界など、他分野へも進出中です。

メダリストや日本代表選手がトレーニングコーチに(株式会社スポリー)

スポリー(東京都港区)は、メダリストや日本代表選手がトレーニングコーチとして指導するオンライン型のフィットネスアプリ を提供しています。アプリを活用した動画でのノウハウ提供とログ管理、アスリートとの体験を販売するECサイトなど、多忙なアスリートやチームが参加できる形でアスリートの持つ価値を最大化し、社会に還元できるようにしています。また、ゲーミフィケーションを活用し、ファンの購買や拡散を促進しながら、ポイントやデジタルバッジを付与。ファンランクを可視化し、応援行動にひもづくインセンティブ設計を支援しています。

決済機能が付いたヘルスケアリングで健康や資産形成をサポート(株式会社Kort Valuta)

Kort Valuta(コートヴァリュタ、東京都目黒区)が展開しているのは、世界で初めて決済機能が付いたヘルスケアリングです。個人の購買データとバイタルデータを取得し、AIで分析することで、健康をサポート。資産形成などパーソナライズした提案を行うことができます。従業員はポイントを貯めて、利用することが可能です。当面は企業向けに福利厚生サービス、地方自治体向けには地域経済活性化サービスとして導入を進め、中期的には病院の患者向け診察券や会員組織、学校法人などにも展開する方針です。

日本最大級のスポーツ推し活プラットフォーム(エンゲート株式会社)

エンゲート(東京都中央区)は、ファンとアスリートを繋ぐ日本最大級のスポーツ推し活プラットフォーム「Engate」を提供しています。スポーツチームや選手に対し、デジタル上でのギフティングを通じて支援の気持ちを直接届けることができ、すでにプロ野球やJリーグ、日本代表など約150チームが参画しています。また、協賛企業が自由にROI(投資利益率)を設定することが可能で、 Engateのポイントを協賛企業が購入し、自社製品の購入や来店したファンにポイントを付与するといった取り組みが行えます。

双方が協働して価値創造を実現するパートナーシップモデルでクラブ運営(株式会社Criacao)

Criacao(クリアソン、東京都新宿区)は新宿を本拠地とするサッカークラブを運営しており、東京23区内で最上位リーグのJFL(アマチュアトップリーグ)に所属しています。スポンサーシップではなく、双方が協働して価値創造を実現する「パートナーシップ」モデルを導入。現在150社とパートナーシップを組み、特に新宿の地域の活動に注力しています。2024年のJリーグ参入を目標としており、Jリーグのプラットフォームを活用した協業の拡大など、さらなる成長を模索中です。

日本政策投資銀行によるとスポーツに関わる製品やサービスの規模を示す「スポーツGDP」(GDP全体に占める割合)は2019年度で1.65%。欧州の各国と比較した場合、10位前後に相当します。スポーツを産業として成長させられていない現状を反映しているだけに、スポーツDXの拡大などスタートアップを媒介役とした新たなビジネスモデルの輩出に期待が高まります。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

原口 瞳 (はらぐち・ひとみ)

大学・大学院では体育学・スポーツ医学を修め、学生から社会人にかけてスポーツチームでトレーナーとして活動。現職では、民間企業への新規事業開発やスタートアップ協業支援、官公庁・自治体へのイノベーション政策実行支援を中心に担当

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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