モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年3月9日に開催した「防災特集」です。

地球温暖化の影響で自然災害の発生件数が大幅に増える

グローバルベースでの自然災害の発生件数は、増加傾向にあります。国連防災機関によると2000~19年の災害件数は、1980年からの20年間に比べて1.75倍に増え、経済損失額は1.82倍の規模に達しました。

災害を種類別に見ると地球温暖化の影響によって、水害・土砂災害、干ばつ・森林火災の増加率が特に目立っており、被害も激甚化しています。日本では短時間の豪雨によって多くの死者を出した2018年の「西日本豪雨」や、翌年の「令和元年東日本台風」などが記憶に新しいところです。一方、大規模な干ばつ・森林火災は、日本にいるとイメージしづらい部分もありますが、乾燥による自然発火で長期間にわたって森林火災が続くケースが世界で頻発しています。2019~20年にオーストラリアで発生した火災は、甚大な被害をもたらしました。

また、自然災害はさまざまな要因が絡み合って、想定外の事態を引き起こすことがあります。例えば2011年に発生した東日本大震災では、大津波が押し寄せ深刻な人的・経済的被害をもたらしました。21年の熱海市伊豆山土石流災害は、記録的豪雨に加え違法な盛り土によって、甚大な被害となりました。

既存のハードの整備や、行政からの指示による防災対策だけでは、こうした想定外の大規模な災害に対応することは難しいといえます。例えば堤防は、河川の氾濫による被害の軽減に一定の役割を果たしてきました。しかし、想定を超えた豪雨が襲来するたびに決壊し、膨大な予算をかけて修復しているのが実態です。ハードに依存するだけではなく、ソフト対策を拡充し、新しい技術の活用による解決が求められています。

2027年の防災情報システム市場は1.5倍の規模に

激甚災害からの被害を最小限とするための方策の一つが、住民による自発的な行動です。そのためにも個別情報を踏まえた避難を行えるようにするほか、高齢者らが健康を保てるような避難所が必要となります。官公庁も大型災害に基づき、高齢者施設でのBCP(事業継続計画)や施設ごとの避難行動計画の義務化、避難所でのパーテーションや段ボールベッドの整備を進めています。また、新しい技術を活用することで、より詳細な情報の入手や個別対応が可能になります。

こうした動きを背景に、防災市場の中でも特に防災情報システムは右肩上がりに推移。シード・プランニングによると2021年の市場規模は1050億円でしたが、27年は1533億円と1.5倍の規模に成長する見通しです。

トルコでは簡易シャワーとして活用

既にさまざまな防災スタートアップが活躍しています。その1社がWOTA(ウォータ)です。自動制御の活性炭と逆浸透膜を通じたろ過により、使用済みの水を98%以上のリサイクル率で再使用可能にする、「WOTA BOX」を提供。2月に発生したトルコ・シリア大地震の際には国際協力機構(JICA)によって現地に持ち込まれ、簡易シャワーとして活用されました。

仮想空間内に現実空間の環境を再現するデジタルツインのスタートアップ、Symmetry Dimensions Inc.(シンメトリー・ディメンションズ・インク)は熱海市伊豆山土石流災害の発生時、静岡県などと連携し3Dの点群データを活用。不正な盛り土が原因で発災した可能性があることを、その日のうちに把握することができました。今後もこうしたデジタルツインは、被害予測や現状把握、ドローン活用など、さまざまな場面での活用が見込まれます。

スタートアップと大企業との連携事例も生まれています。災害備蓄のプラットフォーム「あんしんストック」を提供するLaspy(ラスピー)は明治と資本業務提携しました。Spectee(スペクティ)は、NTTビジネスソリューションズが提供するビジネスチャット「エルガナ」と連携。新たな災害情報共有サービスの提供が可能になります。サプライチェーンのリスク管理サービスを提供するレジリアは豊田通商とリスク発生時のソリューションを展開し、自動車サプライチェーンの強靭化を目指します。

今回は、災害発生前、発生中、発生後という3つの領域から5社のスタートアップを紹介します。

消防団に災害情報を共有できるアプリ(バーズ・ビュー株式会社

バーズ・ビュー(東京都文京区)は、消防団のための防災アシストアプリ「S.A.F.E.(セーフ)」を提供しています。開発者は2011年の東日本大震災で被災した福島県の現役消防団員。情報入手に困難を極めた教訓を踏まえ、消防団員にも災害情報を共有できるサービスとしてS.A.F.E.が誕生しました。地図上で災害発生地点を確認し各団員の出動状況を把握、現場対応完了までの情報を全団員がリアルタイムで共有できるようにしました。

急激な大雨を高精度で検知し、住民に伝達(RainTech株式会社

RainTech(レインテック、名古屋市中村区)は地域特化型気象・防災情報伝達サービス「escommu(エスコミュ)」を提供しています。雨量計を地域の危険箇所に設置し、降雨量のデータを吸い上げ、危険度をピンポイントで予測。特に急激な大雨を高精度で検知することが可能で、該当エリアの住民に伝達し、避難活動へとつなげます。導入主体は自治会ですが、予測ソリューションを土砂災害にも広げ、BCP・ソリューション活用などBtoBへも展開していく考えです。

無人航空機で取得したデータをリアルタイムで更新(株式会社テラ・ラボ

テラ・ラボ(愛知県春日井市)は、長距離無人航空機などで取得したデータの解析や、情報共有に取り組んでいます。飛行中にデータを地上に送り、リアルタイムで情報更新できる点が差別化ポイントとなります。解析した三次元データは報道機関や防災科学技術研究所、内閣府などに提供しています。また、福島県南相馬市に国内最大級のドローン格納庫「TERRA LABO Fukushima」を保有。長距離無人航空機の施策や製造、メンテナンスを行っています。

垂直測位サービスで屋内を検知し高さを把握(MetCom株式会社

MetCom(メットコム、東京都中央区)は、気圧分析による垂直測位サービス 「Pinnacle(ピナクル)」を提供しています。防災分野では高精度な情報に基づく避難行動が求められ、GPS(全地球測位システム)による位置情報は重要な役割を果たしますが、GPSは屋内の検知や高さの把握が不得意というデメリットがあります。Pinnacleはスマートフォンなどに内蔵されている気圧センサー情報を、近隣にある基準点の気圧情報と比較分析しリアルタイムに測定。2~3メートルという誤差内で高さを特定します。

災害・リスク情報をリアルタイムに可視化・予測(株式会社Spectee

Spectee(東京都千代田区)は、災害・リスク情報をリアルタイムに可視化・予測する、AIによるリアルタイムの防災・危機管理サービス「Spectee Pro(スペクティプロ)」を開発、提供しています。AIを活用し、SNSやライブカメラ、気象データ、自動車の走行データなどを基に災害やリスク情報を分析し、リアルタイムで被害状況を可視化。その後の被害を瞬時に予測し、3Dでシミュレーションするなど、災害対応の現場をトータルでサポートしています。

日本初の3Dプリンター住宅(セレンディクス株式会社

日本初の3Dプリンター住宅を提供するのがセレンディクス(兵庫県西宮市)です。一般的な住宅に比べ施工期間を大幅に短縮でき、世界最先端の技術を積極的に導入することで、特許出願中のVR空間をはじめとして、最先端のIoTやセキュリティー、オフグリッド化を住宅内に実現します。主にグランピングや災害復興住宅、別荘用などに使用されており、三井住友海上火災保険とは、日本初の3Dプリンター住宅向け保険の共同開発に取り組みました。

 

 

政府は南海トラフ巨大地震対策の基本計画を改定し、新たな目標を設定する方針を掲げています。また、首都直下地震は今後30年以内に70%の確率で起こると言われています。2023年は関東大震災が発生して100年という節目の年。防災テックベンチャーの存在感はさらに高まりそうです。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

NextCore事業部 Morning Pitchユニット

市橋 良真(いちはし・りょうま)

・元地方公務員(静岡県浜松市)
スタートアップ支援、スマートシティ、実証実験等
・2021年 DTVS入社
Morning Pitch、City-Tech Tokyo、UwT、GTM戦略支援等

 

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

NextCore事業部 Morning Pitchユニット

関 遼樹(せき・はるき)

・2012年 長野県庁入庁
地域防災・消防等、高齢者支援(令和元年台風対応)
・2022年 DTVSへ出向
Morning Pitch、NEXs Tokyo等を担当

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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