モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年6月30日に開催した「DX(デジタルトランスフォーメーション)特集」です。

 

デジタルの導入を通じビジネスモデルを変革

DXとはデジタルの導入を通じ、ビジネスモデルの変革を起こすことです。デジタルの導入を通じビジネスモデルを変革を起こすことです。代表的な事例としてはAIを活用した倉庫内作業の自動化や配送ルートの最適化が挙げられます。ただ、一気にこの段階まで進むのはハードルが高いため、段階を踏まえながら移行するといった考え方が重要でしょう。

まず取り組む必要があるのは、在庫管理のペーパーレス化のように、特定業務のデジタル化によって効率化を図るデジタイゼーションです。次のステップがデジタライゼーションです。事業全体へのデジタルの導入によって、組織の生産性向上につながるノウハウを蓄積するのが目的で、IoTを活用した工場モニタリングなどが主な事例です。こうした段階を踏まえDX化が進んでいきます。

DXが注目されるようになったきっかけは、2018年に経済産業省がまとめた「DXレポート」の中で提唱された「2025年の崖」です。既存システムが抱える問題により、25年を節目に多くの日本企業が直面する危機のことを指し、既存システムの問題を解決しながらデータの活用ができない場合には、25~30年の間に日本経済に年間で最大12兆円の損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしました。

 

COVID-19の感染拡大でDX化の必要性を痛感

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大も、DX化の必要性を改めて考える機会となりました。テレワークを本格導入する動きが顕在化したことで、DXの遅れが浮き彫りになったからです。また、緊急経済対策として実施された特別定額給付金については、自治体職員のアナログな作業に頼る部分が多く、給付に時間を要したため、行政サービスの向上にDXが必要であることが認識されました。

ただ、企業側はDX推進を加速させる必要があると理解しているものの、大半の企業が課題を感じているのが実態です。

 

IT・事業戦略との整合性が必要

DX化を進めるに当たっては、大きく分けて3つの押さえるべきポイントがあると思います。その一つが、経営戦略だけではなくIT・事業戦略も整合したDX戦略を策定し、経営のコミットメントに基づき変革を推進することです。とくに重要なのが評価とガバナンスという観点です。具体的には顧客への価値提供の実現を指標として評価するとともに、顧客体験価値の向上につながるKPI(重要業績評価指標)を設定し、その評価結果に基づいて人材や投資などのリソース配分を改善していくことが大切です。

人材確保と社員育成で企業変革を推進

二つ目は、企業変革を推進するためのリーダーとなるDX人材の確保と社員育成です。日本企業では質量ともに人材不足が課題となっており、AIやIoT、データサイエンスといった先端技術領域での社員の学び直しが重要となります。また、IT部門以外の人材がデジタル技術を理解することが不可欠であることを念頭に置き、具体的な施策を実施することも必要でしょう。

データ分析を組織横断的に推進する組織が必要

三つ目は、IT基盤の整備とデータの利活用です。具体的にはコンテナやマイクロサービスといったクラウド基盤を活用することで、アプリケーションを容易に導入し、新サービス導入時のシステム全体への影響を下げ、メンテナンス性を向上させることが求められます。また、予測困難な外部環境の変化に迅速に対応するには、データに基づき経営や現場の意思決定を行うデータドリブン経営を行うことが重要です。人事・組織面ではデータ分析の活用を推進する「Chief Data Officer」の任命や、データ分析を組織横断的に推進する「Center of Excellence」を設置する必要があるでしょう。

人手不足に悩む店舗が働ける人を短時間だけ活用

ベンチャー企業と大企業の協業事例を紹介します。アパレル業界のDXを支援するシタテル(熊本市中央区)は、生産からEC販売・配送までをワンストップで提供するクラウドサービスを展開しています。アサヒ飲料向けには、老若男女が着用できるカルピスブランドのコートを作成、プリントの手順を工夫し、すべてのコートが同じ位置に柄が入るよう対応しました。

単発バイトの仲介アプリを提供するタイミー(東京都豊島区)は、三井不動産と業務提携を締結しています。全国で運営する「ららぽーと」など50以上の商業施設で同アプリを導入し、人手不足に悩む店舗が働ける人を短時間だけ活用しています。

医療DXのドクターメイト(東京都新宿区)は大手介護施設と提携し、夜間オンコール代行サービスを展開しています。看護師が夜間の緊急事態発生時に、迅速な対応ができる状態で待機する勤務形態のことを夜間オンコールといい、同サービスは離職防止に貢献しています。

 

今回はAI、ワークスタイル・HRの領域から5社のベンチャーを紹介します。

チャットボットで間接業務を即座に完了(株式会社エイチ

エイチ(東京都港区)はスマートフォンやパソコンといった各種デバイスから利用できるチャットボット「叡知AI Assist」を提供しています。オフィスの解約・縮小に伴い必要となったワークスペースの手配や、出張時のホテルの手配といった間接業務を、チャットボットに入力することで即座に完了できます。従来であれば1時間以上要していたところを、1分にまで短縮することが可能です。経費も自動的に管理するため、経費精算も不要です。

 

社内のコミュニケ―ションを活性化(バヅクリ株式会社

バヅクリ(東京都港区)は社内コミュニケーションプラットフォームを提供します。リモートワークが増えたことで、社員同士の雑談が減り、他部署の人との関わりが希薄になったという課題を抱える企業が増えています。解決に向けオンラインイベントを企画するものの、うまくいかないケースが大半で、こうした課題を解決します。チームビルディングからストレスケア、テレワーク研修などで構成され、フリーアナウンサーらが進行を務めます。

 

AIチャットボットが解約を防止(株式会社Smash

Smash(スマッシュ、東京都渋谷区)は、通販や携帯キャリア、生命保険など解約が発生するサービスのコミュニケーションツール「Smash」を提供します。AIチャットボットが解約の分析・防止を行うことで、企業の課題を見つけ顧客維持に努めます。また、AIで分析した結果、どうしても解約の意思が揺らがないと判断できた場合は、対応を「気持ちよく解約できる」方向へとシフトし、解約理由を得るようにしています。

DXプロジェクトの成功率は70%を達成(株式会社Ridge-i

Ridge-i(リッジアイ、東京都千代田区)は、3D点群や画像、最適化AIを活用した研究開発からAIのスマホアプリ化までを実現するサービス「DXアクセラレーション」を提供します。例えばAIを使ったごみ焼却作業の省人化と安定化を図ったプロジェクトでは、3カ月のコンサル後、1年間でAI実装とシステム連携を実施。現在、3カ所の施設で無人稼働中です。経済産業省によると企業が進めるDXプロジェクトは成功率が約3%に過ぎませんが、このサービスでは70%を達成しています。

 

声の元気度を分析し、離職率低減に貢献(株式会社Empath

Empath(エンパス、東京都渋谷区)は、AIであらゆるオンライン会議を録画・分析・整理するサービスを提供しており、見たい箇所からの視聴、倍速再生も可能です。動画は自動で文字起こしされるため議事録にもなり、共有リンクを発行・共有することで、商談相手に議事録代わりに送ることもできます。会議内に出てきたキーワードを検索することで、どこでどのような話題になったのかを追うことも可能です。音声感情解析AIにより、声の元気度を分析できるので離職率低減にも貢献します。

 

交通・運輸や金融がけん引し、市場は拡大

DX市場は交通・運輸や金融といった事業分野がけん引役となり、今後も拡大する見通しです。DXベンチャーの動きもさらに活発化するでしょう。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

スタートアップ事業部

伊達 貴徳(だて・たかのり)

東京工業大学大学院、グロービス経営大学院 修了。東証一部上場電機メーカーにてシステム開発業務に従事した後、外資系コンサルティングファームにてテクノロジーコンサルティング業務に従事。デロイトトーマツベンチャーサポート参画後は、スタートアップ向けのメンタリングイベントの運営、集中支援プログラムのアクセラレーターやマネジメント等に従事。その他、スタートアップのソリューションを大企業に導入するDX推進プロジェクトにも従事。データサイエンスに関するセミナー講師、機械学習に関する著書を有する。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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