モーニングピッチ

MPC

2020.05.18

 

 

弊社が運営するベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すプラットフォーム「Morning Pitch」の会員向けに実施した、コロナ危機におけるオープンイノベーション調査の結果、レポートを発表致します。

今回は、早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄氏をお迎えし、経営的観点から危機下におけるオープンイノベーションの意義、事例等をトコトン議論し尽くします。

▼開催概要▼
テーマ:Withコロナ時代のイノベーション戦略 ~大企業300社 緊急アンケート結果から考える~
概 要:オープンイノベーション調査のレポート報告+入山様を交えたテーマディスカッション
収録日時:2020年4月27日(月)17時00分~18時30分
配信時間:90分

▼出演者▼
ゲスト:早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄 氏
モデレーター:デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 COO 木村 将之
司会進行:デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 代表取締役社長 斎藤 祐馬

■本講演について、また、COVID-19時のイノベーション戦略・オープンイノベーション
スタートアップ協業や投資、CVC設立、イントレプレナー・新規事業創造に関するご相談の際は
下記担当までお気軽にお申し付けください
MPC運営事務局:dtvs-info@tohmatsu.co.jp

 

Withコロナ時代のイノベーション戦略 full ver. ~大企業300社 緊急アンケート結果から考える~

 

◆ 概要レポート:

 日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う緊急事態宣言の全面解除を受けて、経済活動が本格的に再開し始めた。しかし、雇用や企業の生産活動など軒並み悪化した経済指標が改善に向かうかどうかは不透明で、コロナ危機の長期化を前提にした「ウィズ・コロナ」戦略をいかに練り上げていけるかが課題となる。

これに伴い大企業によるベンチャー投資の意欲が減退するのは必至。2008年に発生したリーマン・ショック後の金融収縮が引き金となって、多くのベンチャー企業が息絶えた状況の再来が懸念されている。こうした事態を回避するには、どういった施策を講じる必要があるのか。早稲田大学大学院経営管理研究所の入山章栄教授を招き、イノベーション創出への視座について語ってもらった。

 

 

デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の調査ではスタートアップの42%が、投資活動の鈍化によって半年以内に資金ショートに陥ると懸念していることが分かった。しかし、入山教授は不況期にこそ攻めの投資を行うべきだと主張する。

「With/Afterコロナ時代では、時間軸を3段階に分けるのがいいのかなと思っています。現在は第1ステージですが、コロナのゴールがちょっと見えてくる第2ステージでは、積極的に投資することはチャンスでもあります。逆にこういった不況期にこそ攻めてイノベーション的な投資をできる会社の方が、パフォーマンスが高いというエビデンスがあるからです。確かにイノベーションというのは不確実性が高いものですが、企業が持っているイノベーション力みたいなものが、勝敗を分ける時代にさらになってきたかな、と理解しています」

 

他社の技術やアイデアを活用し、革新的なビジネスモデルを目指すオープンイノベーションを導入する動きが大企業の間で活発化している。入山教授は「オープンイノベーションを展開できる会社が中長期的にイノベーションを起こす可能性が高い」と強調する。

「オープンイノベーションを行う時には人脈が重要になってきます。経営学で重視しているのがネットワーク理論です。仲のいい人のネットワークだと狭くて閉鎖的になりがちなのに対し、ただの知り合いみたいな弱いつながりのほうが、実は長い目で見るとネットワークが広がっているという考え方です。『1、2回しか会ったことがない』という知り合いをたくさん持っていた方が実は創造性が高いのです」

 

ただ、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保という新しい生活様式の下で、人脈を広げることは難しい。

「実行する時にはアイデアだけじゃなくて当然お金が必要となり、信頼性という話になります。弱い結びつきと強い結びつきといった異なるメカニズムがある中、ソーシャルディスタンスの世界でどうやって人脈を広げるかを考える必要があります。また、これからの時代は不確実性が圧倒的に高くなり、景気の回復時期なんて正確に分かりません。そうなると正確性よりも組織に納得性を持たせることが重要です。ソーシャルディスタンスの世界でどうやって実現できるのかが、ものすごく大きな課題だと認識しています」

 

 

総務省の情報通信白書によると、2017年の日本のICT投資額は16兆円で米国の4分の1にとどまり、欧州の主要国も下回る。しかしCOVID-19 に伴う社会変化で状況が大きく変わるのは必至。入山教授も「デジタル変革が確実に起きる」と指摘する。

「シリコンバレーでは、デジタルを活用した新しい知の探索系コミュニティーが出てきており、起業家や投資家、大学教授などさまざまな職種の人が、面識のない人と議論をしています。こうした取り組みは、自分の新しい視点を伸ばすチャンスになります。確かに画面越しだと実証実験もできないし感情も十分に伝わらず、何より雑談ができないといった課題も残ります。ただ、リアルとデジタルの使い方のバランスが変わってきたというのは確かです。従来はまずリアルで会ってデジタルでつながりキープしようという考え方でしたが、今後はデジタルで色々な人に会って繋がりを作り、知の探索に取り組んで本当の信頼関係を構築。投資しようという時になったらリアルで会うといった感じになるのでは」

 

企業の間ではテレワークを取り入れる動きが相次いでいる。この結果、働き方改革が一気に進む可能性も出てきた。

「ある程度、家で仕事を行えることが分かったので、働き方は間違いなく変わると思います。ただ、Zoom待機疲れの人はたくさんいるはず。やはりリアルで集まる場の提供は必要です。例えば1週間のうち3日ぐらいは家で仕事を行い、2日は対面で会うといった感じです。また、普段はバーチャル対応でいいけれど月に1回か2回はリアルに集まって、そこで大きなビジョンとか方向感を共有しようという動きは絶対に出てくるはず。オフィスの利用法も変わる可能性があるはずです」

 

筆者:伊藤 俊祐(デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社)