モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。今回は、6月19日に開催した半導体特集です。

GPUを用いた生成AIが世の中を席巻

半導体の進化とイノベーションの創出は連鎖的な関係にあります。一例を挙げますと、CPU(中央演算処理装置)やメモリーの開発によって革新的なゲームが誕生しました。ゲームが広く流行したことでグラフィックのさらなる進化が求められるようになり、パソコンの映像処理を専門に行うグラフィックボードや、その中に組み込まれるGPU(グラフィック処理向けの半導体)が開発されました。そして現在はGPUを用いた生成AI(人工知能)が世の中を席巻しており、半導体はイノベーションを生み出す源泉であるといえます。

AIと半導体も連鎖的な関係にあり、その領域に属するベンチャーには多くの資金が集まっています。2025年だけで5億米ドル以上を調達した、あらゆる分野のスタートアップを対象にPitchbookが行った調査によると、総調達額で上位10位の半分がAI・半導体関連のスタートアップでした。

AI領域に注目してみると、対話型AI「Chat(チャット)GPT」を提供する米OpenAI(オープンAI)が、これまでの総調達額が639億米ドルと断トツのトップとなっているのをはじめ、生成AI関連のスタートアップが多額の資金調達を行っています。

生成AIの利用拡大に伴ってデータセンターのニーズが急増し、電力が逼迫するという問題が深刻化しています。その課題に対応するため、米グーグルは独自のAI専用半導体「TPU(Tensor Processing Unit)」を開発しました。この動きは他のAI関連企業にも影響を与え、消費電力を抑えたAI専用半導体の開発や内製化に力をいれています。生成AIの需要拡大を背景に、半導体開発に多額の資金が投じられています。

日本は2030年度までに10兆円以上の公的支援を行う

半導体スタートアップ領域では、2022~25年にかけて最も大型の調達を行ったのが米Groq(グロック)ですが、国別に見ると上位10社のうち7社が中国の企業でした。

半導体産業全体を見渡すと、米中対立の激化を背景に、地政学的リスクが顕在化したことから、半導体のサプライチェーンの見直しによる供給体制の確立が各国での喫緊の課題として認識されています。さらに半導体はAIの性能だけでなく、自動運転やIoT、5G通信などの先端技術にも大きく影響を与え、国際競争力や国家安全保障に直結する重要な戦略物資と認識されています。このため、日本、欧州、韓国、台湾では、自国での半導体開発に向けた巨額の投資が進められています。特筆すべき点は、研究開発や半導体スタートアップの支援、エコシステムの創出といったように、将来を担う領域にも積極的に投資している点であり、半導体ユニコーンの誕生が期待されております。

日本では24年11月の経済対策で策定した「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、30年度までに10兆円以上の公的支援を行います。これによって10年間で50兆円を超える官民投資誘発し、約160兆円の経済波及効果を実現する考えです。また、ディープテックに特化したスタートアップ支援事業として、1000億円の予算がついています。

半導体の新たなエコシステムも着実に発展しています。次世代半導体の国産化を目指すラピダスや台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場(熊本県菊陽町)では、最先端品の実用化に向け大型投資が進められ、路線価上昇のけん引役を担うなど多大な経済効果をもたらしています。さらに、他の半導体関連企業の新規拠点進出や設備増強が活発化しており、各地で新たな雇用創出や産業活性化が期待されています。これらの動きが半導体産業全体のエコシステムを拡充し、国際競争力を高める大きな原動力となっています。

大学を中心としたエコシステムも発展

大学を中心としたエコシステムも育っています。民間が全額を出資する東北大の国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)はアカデミックの研究開発に加えて、産業界との強い連携を特徴としています。設立から13年が経過していますが投資や連携の効果が如実に表れており、省力型の次世代半導体であるスピントロニクスやパワー半導体という、日本が戦える領域での技術を確立し、多くの有望な半導体スタートアップも輩出しています。今後、こうした芯の強い半導体エコシステムが日本各地で育っていくことに期待が高まります。

国内ではAIや半導体分野においてスタートアップ間やスタートアップと大企業の連携が進んでおり、エコシステムのさらなる拡充が期待されています。ラピダスは、AI開発のスタートアップであるPreferred Networks(プリファード・ネットワークス)や大手クラウドサービス企業と共に、グリーン社会に貢献する高性能かつ省電力な国産AIインフラの構築に向けた協業を始めています。

今回は大学発パワー半導体や半導体量子コンピューターなど日本の強い分野から5社のスタートアップを紹介します。

次世代パワー半導体に用いられる二酸化ゲルマニウム(GeO2)基板を製造

Patentix株式会社

立命館大発のPatentix(パテンティクス、滋賀県草津市)は、電力損失を極限まで低減した次世代パワー半導体に用いられる二酸化ゲルマニウム(GeO2)基板の製造・販売を行っています。GX(グリーントランスフォーメーション)を実現するには、電力変換ロスを低減できる新しい半導体材料の開発が必要不可欠。ただ、GeO2は変換ロスを従来の炭化ケイ素(SiC)よりも低減できるものの製造が困難でした。このため、安全安価な原料溶液を用いた独自の技術によって、課題を克服しました。

GPUに比べ1000分の1の消費電力を実現した高性能AI回路

株式会社フローディア

フローディア(東京都小平市)はパワー半導体などに使われる、組込み型の不揮発性(電源を切っても記憶内容を維持する)メモリーの製造に必要な工程や回路設計を、知的財産(IP)として半導体メーカーにライセンス提供する事業を展開しています。また、超低消費電力の高性能AI回路を開発しています。AIデータセンターの過大な消費電力が問題になっていますが、このAI回路はGPUなどのデジタル回路に対し、消費電力は1000分の1、コストは10分の1を実現しています。

高品質かつ大口径のウエハー製造が可能に

株式会社FOX

FOXは昨年創業したばかりの東北大発スタートアップで、次世代半導体の材料である酸化ガリウム(Ga2O3)の中で最も安定している「β-Ga2O3単結晶」の製造に成功しました。これによってデバイス製造のトータルコストが大幅に削減、従来法では困難だった高品質かつ大口径のウエハー製造を実現し、これまで困難であった酸化ガリウムの量産化が可能となります。既に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のディープテックスタートアップ支援事業にも採択されています。

電力効率が高く推論処理に特化した半導体を開発

Rebellions Inc.

韓国に本社を置くRebellions(リベリオン)はAIサービスに不可欠な「推論処理」に特化した半導体とその周辺ソフトウェアを開発する、自社で工場を持たないファブレススタートアップです。ハードウェアからフレームワークまで、推論用システムをエンドツーエンドで提供します。競合製品と比べ電力効率が高く、多様なAIモデルに対応できる点を強みとしており、今後は、日本市場でのプレゼンス強化を進めていきます。

量子技術の知識がなくても、APIなどを通じて高度な計算資源を利用できる

blueqat株式会社

blueqat(ブルーキャット、東京都渋谷区)は半導体量子コンピューターによる量子AI開発プラットフォームを提供しています。量子コンピューターとGPUを融合したハイブリッド環境を商用データセンター内に構築し、最先端のAI・最適化・機械学習アプリケーションを可能にします。ユーザーは量子技術の知識がなくても、APIなどを通じて高度な計算資源を利用でき、教育・研究から産業応用まで幅広く対応しています。最終的には、半導体上に実装可能な小型量子計算ユニットの開発を進めていきます。

自動運転やロボットに活用されるフィジカルAIは、物理現象を認識し複雑な動きができるAIのことを指し、次の成長市場になると注目されています。これに伴い、利用時の処理能力や電力効率が高いAI専用プロセッサーなどの需要が増加するとみられます。日本の半導体エコシステムから生まれる半導体設計・製造技術や、産学官の連携によるイノベーションが、世界のAI・半導体市場をけん引し、国際競争力を高める原動力になると期待されています。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部

ディープテック・イノベーションユニット

荒谷 直子

 

青森県八戸市出身
半導体製造装置向け化学工業品メーカーにて研究開発・オープンイノベーションに従事、その後現職
化学工業品メーカー
・次世代半導体向け材料・製品開発等に従事
・外部技術導入等オープンイノベーションを推進
デロイトトーマツベンチャーサポート
・ディープテックスタートアップと企業間のオープンイノベーション推進。ピッチイベントを起点とした購買に向けたフォローアップまでを実行支援
・カーブアウトの戦略立案・実行まで伴走を支援

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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