モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。今回は、4 月24日に開催したFood特集です。

世界の飲食市場は2032年までに24年比の1.6倍へ

食に関するスタイルの変化などを背景にして、世界の飲食市場は2032年までに24年比で1.6倍に拡大するという試算があります。また、フード関連の国内スタートアップの資金調達額は15年以降、年平均で32%の伸びを示しています。

農業・食品関連産業をスタートアップがカバーしている事業領域で分類すると、農水産物の生産、原材料の加工、調理・販売・消費を含む食体験の創造、それらを横串でつなぐサプライチェーンの4つに大きく分けることができます。今回は農水産物の生産以外の3領域について説明します。

過去3年で累計1億円以上の資金調達を果たしたスタートアップについて、事業領域ごとにソリューションで分類すると、原材料の加工では、代替食品原料と食品科学の分野があると考えられます。食体験の創造では、調理ロボットや調理機器から食・栄養の個別化に至るまで、非常に多岐にわたっています。サプライチェーンでは、保存技術などがあります。

資金調達を行った社数と調達額は、国内では食体験の創造がボリュームゾーンとなっています。過去3年で累計1億円以上を調達した企業は74社で累計調達が539億円です。続いて原材料の加工の領域が大きく、それぞれ26社、132億円となっています。

 

原料や加工技術を工夫して本物とは違う価値にも訴求

今回は登壇企業がかかわってくる4つの分野について、トレンドや事業展開のポイントを説明します。

一つ目は代替食品原料の分野です。この分野の課題として指摘されているのが、「動物は使いません」「サステナブルです」とアピールするだけではなかなかマス市場には届かないということです。食べたいと思ってもらうために、限りなく本物に近づけることを重視している企業と、本物とは違う価値にも訴求していこうという企業が存在し、原料や加工技術の工夫に取り組んでおります。

例えば植物性卵の開発に取り組むスタートアップは、こんにゃくやキクラゲを原料として、微生物由来の酵素技術を活用し、卵のコク・食感・物性の再現に取り組んでいます。

二つ目は未活用素材に新たな価値を加えるアップサイクル分野です。選定した原料に対して独自の加工・抽出技術やバイオテクノロジーでアップサイクル品の付加価値をいかに高めていくか、ということに各社取り組んでおります。高付加価値化されている原料の一つがおから。こんにゃくとの結着技術により、匂い、味、食感を自在に調整できるようにしたケースもあります。

また、原料の安定調達が課題になりやすいため、食品企業などの連携先から出る廃棄物をアップサイクル素材に変えて、それを連携先に提供することで新商品を開発するといったビジネスモデルを作っている企業も見られます。

 

ロボットで外食産業の生産性を向上し省人化を実現

三つ目は調理ロボット・調理機器の分野です。外食産業の生産性向上や省人化を実現するために、不定形な惣菜の指定量を掴んで盛り付ける盛付ロボットなど、さまざまなプロダクトが開発されています。

この分野では、店舗への導入時に、初期費用が高い、現場オペレーションとの融合に苦戦する、といったことが課題になりやすい。そのため(1)出口として売り上げ、利益、顧客満足につながることを証明していく(2)現場スタッフを巻き込んで実証実験を行う-といったことがポイントになります。

最後が食・栄養の個別化の分野で、食事記録や検査のデータをもとに、一人ひとりに最適な食や栄養を提案するサービスが注目されています。ITを活用したサービスを提供する企業は、食事・運動などのライフログに基づき、管理栄養士監修の健康アドバイスや献立などの提案をAIが行うアプリを提供。AIによる画像解析で食事メニューの認識と栄養計算を可能とします。

スタートアップと大企業の協業事例として有名なのが、大手コンビニエンスストアのブランドです。植物由来タンパク質を使いながら、何よりもおいしい商品を作ろうというコンセプトを掲げ、大手食品メーカーが参画し4社で共同開発、販売しています。

日本は豊かで多様な食文化を育んできました。その強みを活かし、日本発の技術で新たな食の未来を切り拓こうとするスタートアップ5社を紹介します。

麹からたんぱく質を製造し、お米由来の代替肉を作る

Agro Ludens 株式会社

Agro Ludens(アグロルーデンス、東京都千代田区)は、米たんぱく質を基質に麹菌培養を行うことで、お米由来の代替肉を作るマイコプロテイン事業を展開しています。また、生産プロセスで生み出される米蜜を原料として利用し、バイオ化学品の生産技術を開発するバイオリファイナリーと、バイオマス資源を活用するアグリ事業にも携わっています。今後は大規模生産技術の確立に注力し、将来的にはその技術をもとにマイコプロテイン商品とバイオエタノールの生産規模を拡大、事業拡大と収益化を図ります。

動物由来の原料を使わない細胞培養で、健康的な魚脂を生産

ImpacFat

シンガポールに本社を置くImpacFat(インパクファット)は、動物由来の原料を使わない環境下で細胞培養を行い、健康的な魚の脂肪(魚脂)を生産します。栄養価が高くオメガ3脂肪酸など健康的な脂肪を多く含む点が特徴で、料理として提供するほかサプリメントや化粧品へも活用しています。まずは日本、シンガポール、韓国のスキンケア市場に注力。その後、オメガ3のサプリメント事業を経て、3年後には代替たんぱく質事業に進出し、将来的には一般消費者向けの食品へと展開します。

乾燥技術で未利用野菜を新たな食品にアップサイクル

株式会社グリーンエース

グリーンエース(山形県酒田市)は未利用野菜を新たな食品にアップサイクルする「Up Vege」を展開しています。従来から存在する熱風乾燥技術を発展させ、熱と風を組み合わせた独自技術によって未利用野菜を短時間で乾燥し、粉末化。安価な熱風乾燥と同程度のコストでありながら、数倍から数百倍のビタミン類を保持することができます。これまでに100品目以上の粉末化実績を有しており、パンやクッキーに生まれ変わらせています。今後は首都圏を中心とした小売りや、外食企業との共同開発も目指します。

AIによる献立・栄養管理アプリ

株式会社おいしい健康

おいしい健康(東京都中央区)はAI献立・栄養管理アプリ「おいしい健康」を提供しています。食べる人の持病や減量の目標、冷蔵庫の食材・好み、料理の腕前などに合わせたレシピを提案。ボタン一つで献立の作成を行います。栄養計算や買い物リスト、食事記録といった記録を残すこともできます。もともとはクックパッド社のヘルスケア事業部発であり、会社分割、MBOを経て現在に至ります。既に40万人の健康ビッグデータを有しており、このデータを活用して学術研究やビジネスへの応用を進めています。

油の劣化を抑制し、消費量の大幅削減も可能とする調理機

クールフライヤー株式会社

クールフライヤー(横浜市泉区)は油の劣化を抑制することで、油の消費量の大幅削減も可能とする革新的な調理機「クールフライヤー」を提供しています。油槽と冷却水槽の二重構造によって上部の高温槽と下部の低温槽に分離。独自の方式で水分と揚げかすを速やかに低温槽に沈殿させることで、油の劣化を徹底的に抑制し、鮮度を維持します。油の価格や労働力単価の高騰、CO2対策から、油の消費量の削減や付帯作業の軽減化につながるフライヤーが求められています。クールフライヤーはこうした課題を解決する機器です。

トウモロコシや小麦などの多くの品目で輸入依存度が高い日本にとって、天候不順や自然災害、紛争や政治情勢の悪化が安定調達のリスクになっています。バイオテクノロジーで原料の付加価値を高める技術を駆使するなど、素材領域を中心としたFood Techの活躍が、経済安全保障の観点から一段と強く求められています。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

インダストリー&ファンクション事業部 

 
臼井 祐人

 

・前職
日系化学メーカーの農薬研究開発部門にて、 新規農薬の創製研究および製品企画に従事

・現職
大企業とスタートアップの協業に向けたスカウティング、マッチング支援、PoC伴走支援等に従事

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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