Insights

2016年11月21日

本事業提携はMorning Pitchから生じたものではなく、イベントレポートとなっております。

2016年2月。 あるスタートアップに関するニュースが発表されました。

「弥生株式会社による株式会社Misocaの全株式取得について」

そう、弥生会計を提供する弥生が、クラウド請求書管理サービスを提供するスタートアップ、Misoca(ミソカ)をM&Aしたのです。今回の事業提携インサイドでは、その裏側に迫っていきます。

 

事業提携の裏側に迫る

 

「事業提携インサイド」はトーマツベンチャーサポートが主催する、その名の通り事業提携の裏側に迫っていくインタビューイベントです。今回が初回ですが、今後継続的に続けていく予定です。今回はMisocaのM&Aの裏側に迫りました。登壇者は以下の方々です。

株式会社Misoca 代表取締役 豊吉 隆一郎 氏
株式会社Misoca 執行役員 奥村 健太 氏
弥生株式会社 代表取締役社長 岡本 浩一郎 氏
オリックス株式会社 新規事業開発第二部 シニアヴァイスプレジデント 高山 匠 氏
トーマツベンチャーサポート株式会社 FinTechチーム 柿澤 仁 (モデレータ)

 

Misocaは名古屋発、請求書管理のスタートアップ

 

イベントはMisocaの紹介から始まりました。Misocaは名古屋発のスタートアップ企業で、代表の豊吉(とよし)氏は数年間個人事業主としてwebサービスを運営していました。その後2011年にスタンドファーム社(後にMisocaに社名を変更)を設立しMisocaをローンチ。M&Aを経た今もMisocaの社長としてサービスをリードしています。

Misocaの豊吉氏

Misocaの豊吉氏

 

さて、Misocaはクラウド請求書管理のスタートアップです。請求書を1通から発行し郵送が可能なサービスとなっています。元々豊吉氏がフリーランスの頃、請求書を1通ずつ手作業で管理するのが大変で、このような苦労を解決してできるだけシンプルな世界観を作っていきたいと考えたのが起業のきっかけだそうです。

今では14万事業者が使い、月間170億円を超える請求金額を扱うサービスとなっているそうです(※数字はイベント当時のものです)。顧客は主に中小企業やスタートアップ。機能のバージョンアップも続けており、例えばCSVデータから宛先を一括入力したり、特定顧客に対する請求書の毎月自動発行という機能もあるそうです。

請求書管理から派生したサービスも展開しているとのことで、例えば、中小企業等にとって、新規の取引先や既存顧客との取引額が急に増えるのは嬉しい半面、不安でもあります。そこでMisocaでは請求金額の一定割合を保証金とすることで、貸倒れを保証してくれるサービスも展開しています。

このように「今後は請求書の電子化に留まらず納品書や見積書等の現在アナログで対応されている課題を解決していき、取引のプラットフォームを目指していきたい」(豊吉氏)とのことです。また、クラウドにデータが蓄積されるので、(弥生や)Misocaを使うだけでプラスの価値を提供できるようなことも考えていきたいとのことでした。

 

Misoca + 弥生で目指すのは「コマース3.0」

 

もう一方の当事者の弥生です。「弥生の代表的なサービスは弥生会計でデスクトップ版でのシェアは圧倒的No.1。クラウド版でもNo.1の評価をいただいている」(岡本氏)。

弥生の岡本氏

弥生の岡本氏

 

イベントではMisocaがスタートアップ側、弥生を大企業側と紹介したのですが、「オリックスグループ(※)という意味では確かに大企業だが、実際には中堅くらいの規模。我々のお客様には中小企業の方々が多く、だからこそ弥生も中小企業のつもりでいる」(同)。
(※)弥生は2014年からオリックスの子会社となっている。

さて、弥生とMisocaが次に目指しているのは「コマース3.0」という世界観。「中小企業では請求書に限らず、様々な書類を手で作成している。これをシステム化して社内業務を電子化・自動化したのがコマース2.0。さらに社外とのやり取りもクラウドを通じて電子化・自動化するのがコマース3.0」(同)。例えば、売り手が買い手にある商品を販売するとします。このとき、売り手も買い手もクラウドを通じて受発注のデータのやり取りを行えば、売り手の販売業務、買い手の購買業務、さらには双方の会計業務を自動化することができる世界を目指しているとのことでした。このような取引環境はEDI(Electronic Data Interchange)と呼ばれ、大手では導入している企業も少なくないですが、弥生とMisocaはこれを中小企業でも一般的にしていきたいとのことでした。

クラウドでデータを管理することで、事業としての可能性も広がります。現在はMisocaが取引を、弥生が会計を、そして親会社であるオリックスが金融を得意としています。3社が協力することで、より中小企業に価値を提供することができるとのことでした。

 

「想い」「実績」「ビジョン」の一致がM&Aの決め手

 

話はMisocaのM&Aの裏側に移っていきます。岡本氏によれば、MisocaのM&Aを決断したポイントは3つあるということです。

想いの一致

Misocaという名前は「晦日(ミソカ、月の末日)」が由来で、請求書は、月末で締めることが多いですから、その晦日の作業に貢献したいとの理由からこの社名を選んだそうです。一方、3月を意味する弥生の時期に中小企業の力になりたい、というのが弥生の社名の由来とのこと。日本では伝統的に3月が決算月である企業が多く、この時期に経理作業が忙しくなるのです。
名前の由来が似ている両社ですが、これは偶然ではないそう。Misocaが社名を考えるとき、弥生の名前の由来を参考にし、Misocaという名前にしたとのことでした。数年後にそのことを弥生の岡本氏に話す機会があり、岡本氏は会社としての「想い」が一緒だと認識し、後のM&Aを後押したとのことです。

実績の一致

前述の通り、弥生のシェアはデスクトップで圧倒的No.1、そして今やクラウドでもNo.1、Misocaも請求書管理ではNo.1かつ先駆者という自負があったとのことで、No.1同士がタッグを組むことで、より大きな価値を提供できるとのことでした。

ビジョンの一致

前述の通り、弥生とMisocaが目指している「コマース3.0」は中小企業の商取引のEDI化を促すもので、取引のプラットフォームを目指すものです。両社は元々目指している方向が同じだった経緯があり、両社のビジョンは一致していました。これからはそのビジョンをベースに、お客様の事業を成長させる新たな領域にも挑戦していくそうです。

 

もちろん、買収金額やその他の条件交渉もありましたが、今回は以上の3つの要因がM&Aを後押ししたとのことでした。

 

M&Aのきっかけは弥生もクラウド請求書を始めようとしたこと

 

さて、ここからはパネルディスカッションの内容をお届けします。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

 

Q.M&Aの提案をすることになったきっかけは何だったのか?

A.(岡本) 実は、元々デスクトップ版で「やよいの見積・納品・請求書」という、請求書管理ソフトがあり、このソフトをクラウド化しようとしていた。Misocaとはその前から知り合いで事業の話を聞いていたこともあり、そろそろサービス内容がバッティングするかもしれない、という話を豊吉さんたちにした。その際「一緒にやることもありだよね」とM&Aの可能性を暗に示唆した。

(豊吉) 当時は弥生がクラウドに強い会社というイメージは正直なかったが、弥生がクラウドで請求管理をやるという話自体には驚きはなかった。しかし、我々はクラウド請求書管理のパイオニアで、そんなに簡単なものではないことはよく知っている。正直、弥生がやっても上手くいくのか懐疑的というのが第一印象だった。

ただ、よくよく話を聞いてみると、デスクトップでやっていることを単にクラウドでもやるわけではなく、売り手と買い手をつなげてEDIのようなプラットフォームを目指すという。今まで弥生がやってきたこととは明らかに異なり、むしろビジョンや方向性は我々と一緒と感じた。もし弥生が本気で挑戦してきたら怖いなと思う一方、M&Aを経て一緒にやれたらより効果的なサービスを提供できるだろうなと思ってワクワクもした。

Misocaの奥村さん(左)と豊吉さん(右)

Misocaの奥村さん(左)と豊吉さん(右)

 

大企業とベンチャーのM&Aの難しさ

 

Q.M&Aを検討するに際して、Misoca内で難しかったことは何か?

A.(豊吉) 立場によって果たさなければいけない責任が違うことには苦労した。例えば、Misocaを成功させたい経営者としての自分と、株主としての自分は相反する部分がある。例えば(M&Aを成功させやすくするために)株式譲渡価額の目線を下げると他の株主に迷惑がかかってしまうが、一方で、経営者として事業の成功を優先するならM&Aの条件を譲歩するべきなのかもしれない。ただ、このように困っているときには奥村が交渉の場に立ってくれて非常に助けられた。

(奥村)M&Aにあたっては、豊吉だけではなく、私も色々と対応した。この件に限らず、色々な選択肢がある中でこちらが立てばあちらが立たない、ということはよくあったが、皆でベストな対応はできたと思う。

 

Q.Misocaは完成された会社ではなく、これから成長するステージ。買収側の意思決定はすんなりはいかなかったのではないか。

A.(高山)MisocaのM&A案件においても、オリックスグループの投資基準を適用し意思決定をしたが、スタートアップ企業の企業価値は必ずしも形式的な算出方法では説明しきれないことも理解して検討した。一般的に大企業ではどうしても数字を使って合理的に説得する必要があるし、それが健全な姿とされている。また、オリックスとしてスタートアップ企業のM&A案件はあまり事例がなかったのでハードルは高かった。ただ本件では、元々弥生が自社でクラウド請求サービス事業を展開する計画を描いていたので、それを検討のベンチマークに使えたことはプラスだった。弥生がサービスを自社開発するプランと、MisocaをM&Aするプランとを定量的に比較検討することができ、M&Aの合理性が明確になった。

オリックスの高山さん(右)はオリックスの立場からM&Aを実施

 

Q.弥生がMisocaをM&Aする以前に、弥生はオリックスの子会社となった経験がある。そういう意味では、岡本氏はMisocaにアドバイスする立場でもあったと思うが、何かアドバイスはあったか。

A.(岡本)豊吉さんには「M&Aされた後にモチベーションは一時的に下がるかもしれないけど頑張って欲しい」というアドバイスはした。それはM&Aをされる側の経営者としては当然で珍しいことではないと思う。M&Aの交渉期間中は全速力で走っている状態。M&Aが終わってからもテンションを高いまま維持するのは非常に難しい。実は自分自身もそうだった。

 

大企業がスタートアップの文化を取り入れる

 

Q.M&Aをしたことで生まれる利点は何か。

A.(奥村)請求書管理系のクラウドのプレイヤーは何社かいて、web上での反応はいいものの、クラウドは現在浸透フェーズだ。世の中はまだまだ非webで動いていることが多く、その点弥生は非webで圧倒的なシェアを獲得している。Misocaの今後の展開を考えたときに、有利な展開にもっていけるのではないかと思っている。

(岡本)一般的にはM&Aでは文化やシステムが衝突してしまうこともあると思うが、今回はむしろ弥生と異なる新しい文化を取り入れたかった側面もある。例えば、弥生とMisocaではサーバシステムが違うのだが、技術を分散させたいという意図もあり今のところ両者を統合する予定はない。また、Misocaではリモートワークは当たり前だし、つい先日にはRubyの聖地、松江にサテライトオフィスをオープンするなど、先進的な働き方を取り入れている。学べることは多く、弥生でもいずれは新しいワークスタイルを提示していきたい。

 

 

さて、今回の事業提携インサイドはいかがでしたでしょうか。当日は2時間と長丁場で、他にも沢山の質疑がなされていました。

イベント後の名刺交換も盛り上がっていました

イベント後の名刺交換も盛り上がっていました

 

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